夢夜

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ナナセが落ちてくる。 夢と一緒。 何度も繰り返し見た悪夢じゃない。 たったさっき。 見た夢と一緒。 ナナセが落ちてくる。 ペンキのはげた黒い手すりから。 真っ逆さまじゃない。 宙でくるりと一回転し。 こっちを見た。 目が合う。 足が動く。 手を伸ばす。 ナナセの身体が。 腕の中に。 おさまった。 「おとと…!」 尻もちをついて。 2人で地面に転がる。 「いった!」 「ナナセ…!」 「カイチ、なんで来るのバカ!」 「そっちこそ勝手にいなくなって、  ひとりで危ないことすんな!」 「それよりまだ教授が…!」 「大丈夫だから」 「でもカイチが…!」 「大丈夫!」 手を握る。 「大丈夫だよ。  ここにいる」 ピンピンしている2人を。 見下ろしていた教授は。 やっと我にかえり。 「待てナナセ!」 銃を向けた。 その背後に。 「銃を下ろせ」 サイキがいた。 「止められると思うな」 「悪いけど、  あんたの仲良しな防衛省と、  うちは仲悪いもんで。  頭撃ち抜かれたくなかったら銃を下ろせ」 教授は舌打ちをして。 銃を捨てた。 廃校の敷地に。 パトカーが押し寄せる。 チカチカと目が眩む。 どこを見るでもなく。 ぼんやりと座り込んで。 「ねえ」 「うん」 ナナセとカイチは。 並んでいた。 「さっきのさ」 「うん」 「どこにも行かないって」 「夢で、言ってたろ?」 「覚えてるの?」 「思い出した。  ザンカさんのとこで」 「あの人の界析受けたの?!  よく生きてたね」 「死ぬかと思ったって」 笑っているが。 疲れ切っている。 「でもそこで見たんだ。  ナナセが降ってくるのを、  キャッチして、  サイキが教授を捕まえるとこ…」 あくびが話を遮る。 「眠る?」 まだ話したいことが。 たくさんあるけど。 「うん」 目覚めた時でいっか。 「おやすみ」 「おやすみ」 ナナセの肩にもたれて。 カイチは眠ってしまった。 「ナナセ」 サイキが近寄ってくる。 「眠ったのか」 「はい」 「目覚めるか、  分からないぞ」 「分かってます」
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