窓辺

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窓辺

清々しいといえば聞こえの良い。 晴れているにしてはずいぶんと、冷たい風が吹く。 この世界はあまりに。 静かすぎる。 みんな。 外へ出ることなど。 忘れてしまったようだ。 今の時代。 便利屋というのは結構な需要がある。 仮想世界がどんどん広がり。 現実よりも確かに思えて。 四角いブルーライトの窓に。 みんな齧り付いている。 それでも身体は物質世界に生きているから。 どうしても。 実際に動いて。 実際に触って。 確かめなきゃならないこともあるだろう。 それを代行するのに、便利屋を始めた。 何年かはあちこちを駆けずって。 物を届けるとか。 何か作るとか。 そういうことをしていたんだけど。 1年ほど前。 偶然再会したナナセから。 妙な仕事を頼まれて。 それがなかなか儲かるもんだから。 生活はずいぶん楽になった。 ナナセは。 ひどくボケた合成写真のような画像を見せて。 現実にある同じ場所を探して欲しいというのだ。 初めはネットで検索して探すだけだった。 ある時、実際に行ってみて写真を撮ってきた。 適当に構図を真似ただけの写真だが。 ナナセはそれを。 穴が開くほど見つめていた。 それから。 現場を見つけて。 なるべく似た写真を撮るのが仕事になった。 高校で知り合ったが。 卒後8年は、何をしてたかも知らない。 ナナセの方から連絡をしてきた。 どこからか、便利屋をしていると聞いて、依頼をしにきたという。 その妙な依頼を受け続けて、もう1年近く経つ。 彼女の家を見下ろす。 窓に。 ようやく灯りがついた。
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