窓辺

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今日も依頼で呼び出された。 前の依頼からは3ヶ月もあいている。 今年の夏は暑かったが、冬もかなり厳しいらしい。 早くも雪がつらつく季節だ。 「寒い中、悪いな」 部屋は暖められていたが、ナナセの髪は雪に濡れている。 帰宅直後なのが分かる。 言いながらファイルを差し出す。 いつもながら話が早い。 「だいぶご無沙汰だったな」 挨拶を装った探りは。 「今回はそれ」 本題で牽制される。 渋々開くと。 ファイルには。 四角い枠が写っている。 「…窓?」 壁は白く。 窓枠は黒い。 中のカーテンも黒か濃いグレーに見える。 今回は画像が少ない。 角度は違うが。 どれも同じ窓の写真だ。 「これ、  モノクロ写真?  それともこういう色?」 蛍光灯の灯りに透かしてみる。 この通りなら。 建物の外壁の色でだいぶ絞れる。 でも。 色が違うとなると面倒だ。 「分からない」 「それが一番大変なんだけどな」 「ひとまずそれで探してくれ。  追加で情報が出れば伝える」 「分かった」 画像を全て通して見る。 その中の1枚を指す。 「すぐ隣の建物がガラスに映ってる。  屋根の感じからして一戸建て。  隣がこんななら多分だけど住宅街だ。  この窓は通りには面してない。  もう少し引いた、  建物全体が分かるのとか、  周辺の風景、  近くの看板とかないかな。  探すヒントになるんだけど」 ナナセは首を振った。 「これ以外はない。  でも、  可能性の高い場所なら…」 パソコンを操作して。 住宅密集地の地図を印刷する。 「この地区」 地区名をネット検索してみる。 「新しい居住地区として開発されてる。  こういう地域での一軒家はそう多くない。  この中にあるなら見つけるのは簡単だ」 「そう…」 ひとまず預かる。 「そういえばさ、  この前の海の仕事」 さりげなく言ったつもりだった。 でも。 力が入っていたのだろうか。 不自然さが出てしまった。 睨まれた。 「言う気はないって?」 「余計な詮索はしないで」 「俺もできればしたくないけど」 「…」 黙ってしまった。 踏み込みすぎてはいけない。 依頼を取り下げられるわけにはいかない。 「じゃあ、  依頼は引き受けまっす」 話は終わりだと。 ファイルをパタンと閉じて、詫びるように微笑みかけた。 困らせたいわけではないんだ。 「頼んだ」 そう頷く彼女は視線を合わせない。 彼女の不安は拭えなかった。
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