窓辺

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「窓、  窓、  窓…」 どれも似ているようで違う気がする。 ネット上で地区内を歩いた限りじゃ、似た窓は見つけられなかった。 いくつか見当をつけて実際に見にきても。 やはり違う気がする。 ためにしカメラを起動して、モノクロの画面で見てみても。 「違う…」 この地区じゃない。 その結論をメールで伝える。 『探してみたが指定の地区では見つからず。  ほかに候補の場所はありませんか?」 端的な文面だ。 職場でそれを受け取ったナナセは、ほっとため息をつく。 「どした?彼氏?」 「違います」 向かいの席の同僚が笑う。 「何だその窓」 背後からもう一人。 「そんな面倒なの探してるのか」 画面を覗き込む。 写っていたのは、カイチに渡した写真と同じ窓だ。 だが少し違う。 窓に人影が見える。 「見た当人の居住地区は、  探したんですけど違うみたいで」 「自分の家を見てるわけじゃないだろうしな」 「知り合いの家ですかね」 「見えてる人影から探れないのか」 「これ以上鮮明なのは出せなくて」 「見せて」 向かいの席から回り込んでくる。 「これ、古い窓だね」 「そうですか?」 綺麗に手入れされている。 劣化したようには見えないが。 「鍵の形が旧式だ。  それにこういう細部は、  見た人がよほどよく見てなきゃ、  ボケて省略されるか、  見慣れたよくある鍵の形に改竄される。  見た人は、  家が古いことも、  窓が旧式の鍵なのも知っている」 「知り合いか、  この家をよく見てる人」 「こういう古い家で、  向かいに映るような戸建ての多い地区は…」 隣でパソコンを操作する。 「その人の居住区周辺なら、  この辺かな」 地図上に。 以前ナナセが指定した地区の周辺に5つ。 円がつく。 「まだ広すぎるな」 同僚は唸るが。 「いえ、これでいいです!」 端末で画面を撮って席を立つ。 ナナセから追加の候補地区が送られてきて3日。 カイチは徹夜でネット上を探し回り、候補の窓を見に行って7箇所目で。 「見つけた」 実際は淡いクリーム色の壁に焦茶の窓枠だった。 濃い赤のカーテンがかかっている。 見上げて。 写真を撮る。 民家にカメラを向けている。 絶対に怪しい。 平日の昼にやることじゃないが、光の感じからして夜では撮れない。 仕方がない。 何か言われたら逃げるしかない。 そうおもいながら。 おそるおそる。 シャッターを切る。
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