窓辺

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「見つけたよ…」 寒い中、歩き回ったせいだろうか。 風邪でも引いたかもしれない。 喉がガラガラと乾いて。 空咳が出る。 「大丈夫?」 「うんまあ」 優秀な暖房器具に温められて。 凍っていた鼻水が溶け出したように出てくる。 「薬代も請求していいよ」 ナナセはティッシュの箱を差し出す。 それを受け取り。 カイチは写真を差し出す。 たしかに同じ窓だった。 地図上に印をした家を指す。 「なんなの?  普通の民家だけど」 「…」 睨まれた。 踏み込むなと。 「分かったよ」 肩をすくめる。 「ありがとう。  ちょっと電話かけてくるから、  あったまってて」 湯気の立つマグカップを渡し。 書斎を出て行く。 受け取ったカップを、カイチはそっとデスクに置いて。 きちんと閉められた後のドアに。 ゆっくり近づき。 耳を当てる。 「…だから、  今すぐ監視を増やしてください!  なんなら上の部署に回してもいいんで!  証拠?  これから持っていきますよ!」 戻ってくる足音がして。 慌ててドアから離れる。 「ちょっと今から出なきゃならない。  報酬はまた連絡するから、  その時に」 ナナセはいつも現金主義だ。 「別に振り込みでもいいけど」 「現金でしか払わない」 「はーい」 カイチの撮った写真をかき集める。 デスクの上で。 カップが。 なみなみと茶の入ったまま湯気を立てている。 「また忙しくなる?」 「何?」 「前の仕事の後は、  忙しいみたいだったから」 海の件だ。 「連絡を返さなかったのは悪かった」 「あの後、  何度来ても留守だったから」 「…」 振り返る。 また困った顔をさせてしまった。 流石に数日張り込んだとは言えない。 「いや、迷惑だよねごめん」 「3ヶ月も待たせないよ。  来週中に一度連絡する」 「ん」 ナナセの家を後にする。 道なりにまっすぐ進んで、大きな角で曲がる。 ここには防犯カメラがある。 そのあとまたすぐ曲がる。 この小さな小道は、カメラはないし、大通りのカメラにも映らない。 人も少ない。 通りを足早に戻ってナナセの家の近くまでくる。 大きなマンションがある。 塀を越えて簡単に入れる。 非常階段を4階まで上がる。 ここから。 通りを挟んで。 ナナセの家の出入り口が見えるのだ。
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