優しく触れて

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優しく触れて

 触れるだけの子供みたいな拙いキスは、いままでしてきたキスの、どれよりも甘さを感じる。けれど応えるように唇を食まれて、天音はぞくりとする快感に身体を震わせた。 「天音さん、もう逃げたりしないでね」 「ごめんなさい。一方的に避けて、誠くんの気持ちを無視して、酷いことした」 「それはいいんだ。ただ天音さんが苦しんでいるのに、助けられないことが辛いから。もう一人で抱え込まないで」 「うん」  優しい手が頬を撫でて、耳をくすぐるように輪郭を撫でる。もっと触れて欲しくなり、天音が手のひらにすり寄ると、小さく笑った誠は首筋に指先を伝わせた。  恥ずかしい――それでもいまは、すべてを抱きしめて欲しい。 「誠くん。シャワー、浴びていく?」 「もしかして、いま俺、誘われてる?」 「雨に、濡れたし。このまま帰ったら風邪を引かせちゃうし。泊まっていってもいいよ」 「ねぇ、これってどっちの意味?」  耳元に熱く囁かれて、そこに熱が灯る。ゾクゾクとする感覚に天音が身をよじると、優しく舌先で撫でられ、齧り付かれた。 「んっ、……そ、傍にいて欲しくて。目が覚めて、夢だったら悲しいから」 「傍にいて一晩、抱きしめるだけでいいの?」 「あの、僕、最近誰とも付き合ってなくて、そういうことすごくご無沙汰で。誠くんのこと、気持ち良くしてあげられるか、わからないし」 「……それって、すごく気持ちを煽られてる気にしか、ならないんだけど」 「えっ、違うよ! は、はしたないこと言ってごめん」 「どちらかというと、気持ち良くしてあげるのは、俺の役目だと思うんだけど」 「え!」  ドキドキと耳元で鳴っているかのような胸の音。どんどんと高まる音に、天音はうろたえたように視線をさ迷わせる。けれどそれを許すまいとする誠に、意識を引き戻された。  突然与えられた、深いキスは肌をざわめかせる。しがみつくように背中を抱きしめると、舌でたっぷりと口の中を撫でられた。 「誠くん、経験、……ある?」 「男の人とってこと?」 「うん」 「白状すると、知識はあるけど、実際にしたことはないんだ。経験自体がないって言ったほうが早いかな。ちょっと片想いをこじらせすぎてて。そういう機会がなかった」 「じゃあ、僕が初めて?」 「天音さんが、リードしてくれる?」  そわそわした気持ちで見上げた天音は、見つめてくる誠の瞳に頬を熱くする。熱の灯った瞳に捕らわれるのは、身震いするほど心地がいい。  自分だけ、という特別がますます期待を大きくする。 「いい、よ。ちゃんと気持ち良く、してね」 「うん。頑張る」  顔を見合わせると、自然と笑みが浮かぶ。照れくささを滲ませながら、誘われるように瞳を閉じれば、優しいキスが降り注いだ。 **  火照る気持ちをなだめすかすようにシャワーを浴びたあと、部屋へ行くと本に視線を落としていた誠が顔を上げた。  先に済ませていた彼は、Tシャツにハーフパンツという出で立ち。普段から天音がオーバーサイズの部屋着を着るので、なんとか間に合った。 「天音さんって、本当にいつもそういう格好なの?」 「え? あ、うん」  いきなりの問いかけに、なにを言われているのかわからなかったが、見つめてくる視線でようやく気づく。着ている部屋着、のことだろう。 「ちょっと意味がわからないくらい、可愛いね。こっち来て」  カーペットをぽんぽんと叩く誠は、やけに真剣な面持ちに見える。その顔に疑問符を浮かべながら天音が近づくと、すぐさま手を引かれて、彼の腕の中に閉じ込められた。  胡座をかいた足の上に載せられて、後ろから腕を回されると、天音の胸はドキドキと高鳴り出す。 「昔からこの格好?」 「そう、だけど?」 「昔の恋人はこれを毎日見てたってこと?」 「まあ、そうだね。一緒に暮らすようになった人は毎日かな」 「一緒に、暮らす、……はあ、言い方が悪いけど。いままで付き合ってきた人って、頭がおかしいんじゃない?」 「ええっ? なんで?」  大きなため息を吐き出した誠は、天音をぎゅうぎゅうと抱きしめながら、首筋にすり寄ってくる。少し苦しくもあるが、天音はそれよりも胸が騒いで仕方がない。  これでは心の声を聞くまでもなく、胸の高鳴りだけで、気持ちがバレてしまうのではないだろうか。 「こんな可愛い天音さんを毎日見てて、毎日一緒に過ごせて、別れる気になる人は絶対どこかおかしい」 「んー、ほら最初は新鮮でも、見ているうちに飽きが来ることって」 「飽きる? ないない、俺なら絶対ない。しかもこんなに、好き好きって気持ち溢れさせてる天音さん、たまらない」 「えっ、……やっぱり聞いてるの、僕の声」 「どんなに蓋をしても聞こえてくるよ。めちゃくちゃ甘くて可愛い音」 「恥ずかしいから、ちゃんと塞いでてよ」  天音を抱きしめる腕の力が強くなって、背中がぴったりと誠に触れる。声が聞こえてしまう、そう思うと余計に心の中が彼でいっぱいになった。  頬が熱くなり、天音は俯いて顔を隠す。 「こっち、向いて。天音さん、キスしたい」 「いま変な顔、してる」 「大丈夫、可愛いよ」 「もう、適当なことばっかり」 「本当だよ」  ふいに甘やかになった、声に誘われるように顔を上げれば、視線が絡んで唇に口づけが降る。どんどんと深くなるキスで、触れる唇が熱くなっていく。  吐き出す息が熱を持ち始めた頃には、Tシャツの隙間から手が忍び込んだ。肌を滑るぬくもりに、天音は肩を震わせる。 「触られるの、嫌じゃない?」 「いまは平気。ドキドキするけど」 「じゃあもっと、触るよ」  熱のこもった息を吐いて、誠は天音の身体をまさぐる。感触を確かめるようにじっくりと肌を撫でる手は、小さな天音の反応を拾っていく。 「天音さんは感じるとこ、たくさんあるよね」 「……言わないで、恥ずかしい」 「どうして? すごく可愛いし、いっぱい気持ち良くなってもらえそうで、俺としては嬉しい」 「ぁっ」  小さく笑って、誠は天音の首筋にきつく吸いついた。身体を撫でる手、触れる唇。それだけで肌がざわめいて、天音の股間はすでにスウェットを押し上げている。  そこへ視線を向けられているのがわかると、燃えてしまいそうなほど顔が熱くなった。 「天音さん、可愛い。俺の手に感じてくれてるんだ。嬉しい」 「誠、くん。……胸も、触って」 「ここ、すごく感じるんだったね」  脇腹を撫でていた手が、ふいに胸の尖りをつまんだ。途端に腹の奥がきゅんとして、天音は腰を跳ね上げる。指先で押し潰すようにこねられると、膝が震え、スウェットにシミが広がった。  もう片方も同じようにされれば、口からは荒い呼気とともに、甘い声が漏れ出す。 「気持ちいい?」 「ぁっ、あっ、……きもち、いい。もっと」 「すごい、可愛い声。……ごめん。もう我慢、できない」  誠の言葉の意味を悟る前に、身体を抱き上げられて、背後のベッドに投げ出された。乗り上がってくる彼の目は、欲に濡れていて、目が合うとぞくりとさせられる。  いつもと違う誠の一面を見て、無意識に唾を飲んだ天音は、胸に大きな期待を膨らませた。 「がっついて、ごめん。嫌なことは、絶対にしないから」 「平気、誠くんなら、……なにされてもいいよ。だから好きにして」 「天音さん、そうやって煽るのやめて」 「そうだ、テーブルにある袋。さっき誠くんがシャワー浴びているうちに、買ってきた」  照れて真っ赤になっている誠に、天音は指先を伸ばして紙袋を指す。 「あの、ただ……誠くんの、サイズが、そのわからなかったから」 「……う、うん。大丈夫。標準だと、思う」  紙袋を開いた誠が首筋まで赤くするのを見て、天音もつられるように顔を熱くする。これまで恋人と何度もしてきたのに、これから初めてするかのような気分だ。 「こういうことに気の回る男になりたい」 「気にしなくていいよ。それより早く、こっちに戻ってきて」 「うん」  再びベッドに乗り上がった誠は、手を伸ばした天音に誘われるままに近づいてくる。抱き寄せるように首元に腕を回せば、やんわりと触れるだけのキスをされた。
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