標灯をつなぐ

　イマドコニイマスカ
　無数の呼びかけは、高梨の目には呪いに映った。

　焼け焦げた地面。建物だったものの残骸が家の跡に沿って小さく埋もり、ところどころにほんのわずか残る炭化した木の幹。
　薙刀が一閃したようだ。
　まっさらに似た光景を前にして、高梨の頭には現実味のない感想が浮かんだ。
　見回す限りひしめきあっていた記憶の街は遠くまで見渡せる野原に変わり、それでも街だったと分かる分だけより痛々しい。全て死んだのだと片付けるにはあまりに傷あとが多かった。
　それらに囲まれた高梨自身の確かな生も、外側からさらさらと崩れていく。音すら息を失った空間で、幻覚に襲われた高梨の小さな足は動きを奪われた。
　――ぶわり、と。
　一陣の風が高梨を煽って、その耳にかすかな掠れを運ぶ。誘われるように振り向くと遥か遠く、白っぽい塊が目に入った。
　何だろうと思った時には既に、高梨の足は左、右と動いていた。
　それほど距離はなかったが、高梨はしばらくも歩いた気分に陥った。そびえ立つ壁を前にようやく歩みを止める。
　風向きか運か野原の端の方、何とか生き残ったという体の壁一面に、無理やり張りつけられた無数の紙や布がはためいていた。
『ドコニイマスカ』『イマドコニ』
　風が止んで、それらが一斉に高梨に顔を向ける。隣町の親戚の家にいます、連絡を下さい、山向こうの病院へ、子どもはあそこへ。