標灯をつなぐ

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 ぼんやりと眺める姿が、田舎者が街並みに圧倒されたように見えたのかもしれない。高梨が配属されたここの郵便局にもう長く勤めているという山下は、小柄な身体の腰をさらに丸めながらそうかいと言った。 「縁のある土地で良かったねえ」 「そう、ですね」  縁とまで言えるのかは高梨には分からなかった。知り合いだったか遠縁だったか、とにかく二度とも誰かに会う母親について来ただけだった。  一度目は幼すぎておぼろ気だが、それでも暮らしていた山奥よりははるかに栄えて、何もかもきらきらしていた覚えはある。二度目はきっと、空襲の知らせを受けて生存を確認しに来たのだと思う。他の全てをおいてあの光景が焼きついてしまったせいで定かではないが、行きも帰りも、高梨は母親に話しかけられなかった。よく知ったはずの顔が他人に見えた。  どのみち良いとはうなずけない。それでも人の良さそうな、高梨にとってこれから世話になる相手を否定できなかった。 「それじゃあまずは中を案内するねえ」 「お願いします」  薄くなり始めた頭を撫でながら歩き出した背に、高梨は一歩遅れて続いた。
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