42人が本棚に入れています
本棚に追加
《明日うちに来られる? 一緒に勉強したいなと思って》
ちょうど龍也からメッセージが送られてくる。こんな状態の中どんな顔をして会えば良いのか。しかしもう覚悟はできている。私は意を決して龍也の家に行くことにした。
翌日。学校が終わると、私は龍也と一緒に彼の家へと向かう。普段から口数の多くない二人だが、今日は無に等しかった。これが別れ際のカップルなのかと、私は痛切に感じる。
龍也の部屋に上がってからも、会話はほとんど無し。勉強に集中していると言えば聞こえは良いが、私としてはそれどころではない。何もできずに時間だけが過ぎていく。
このままでは駄目だ。私は勇気を出して龍也に尋ねた。
「……ねえ、ちょっと聞いて良い?」
「うん。どうした?」
「昨日の帰りさ、杏玖と一緒にいたよね。あれってどういうこと?」
「え……。……あ、あれ、見られてたの?」
龍也が分かりやすく焦り出す。これは疚しいことがあるに違いない。
「……そっか。はあ……、ならしょうがないな」
諦めたように溜息を吐く龍也。彼も腹を括ったか。これで私たちの関係も終わりだ……。
「あ……」
刹那、私の瞳から生温い水滴が零れ落ちる。涙だ。別れを悟り、思わず泣けてきてしまった。
「へっ? ちょ、ちょっと待って。何で泣くの? 俺何かした?」
「だ、だって、龍也は別れようって言うつもりなんでしょ?」
「……はあ? そんなわけないじゃん!」
「え?」
反射的に涙が止まる。私たちは共に状況が飲み込めず、互いの顔を見合って数秒の間沈黙する。
「えっと……、別れるつもりなんて全く無いから。昨日外羽と一緒にいたのは、……その、優築に何かプレゼントしたいと思って相談してたんだよ」
「……プレゼント?」
「そう。野球部を引退したから、お疲れ様の意味を込めて何か上げようと思ってたんだ……」
龍也が顔を赤らめて言う。頬の下を指先で掻くのは、恥ずかしがっている証拠である。
最初のコメントを投稿しよう!