珠音のやりたいこと

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「君は本当に、プロに行くつもりは無いんだね?」 夏大の決勝戦の試合後、私は見ず知らずのおじさんにそう尋ねられた。真夏にも関わらず長袖のジャケットまで羽織り、スーツを着こなしている姿を見ると、流石におじさんという表現は失礼だろうか。なのでここでは中年男性と呼ぶことにする。 「はい、そのつもりですけど……」 私はさぞ当たり前かのように答える。どうしてこんな質問をされるのか、正直理解できなかった。プロなんてもっと野球の上手な人が行くものではないのか。 「……そうか。となると大学に行く予定かな?」 「ええ……、まあ。私の学校じゃほとんどがそうですし」 ついさっき最後の大会が終わったところなので、明確な進路はまだ全然考えられていない。ただ私には将来の目標なども無いし、とりあえず自分の学力に見合った大学に進学するのが妥当だろう。 「なるほどね。……分かった。うーん……」 中年男性は口をへの字に曲げ、困ったような表情を浮かべる。それから暫し考え込んだ後、ポケットから名刺を取り出した。 「とりあえずこれを渡しておくよ。自己紹介が遅れたね。私の名前は佐藤(さとう)光一(こういち)。一応プロの球団でスカウトみたいなものをやってるんだよ」 渡された名刺を見ると、名前の横に『北九州ミラクルエクスプレズ編成部長』という肩書が付いている。聞いたことの無いチーム名。そもそも私は女子野球のプロチームを一つも知らないわけだが。 「ミラクルエクスプレズは、来年からプロリーグに新規参入するチームなんだ。今はそのメンバー集めをしている最中でね。高校生の中にも良い選手がいたら、声を掛けようと思ってたんだ」 「それで、私を選んだんですか?」 「そういうこと。紅峰さんにはぜひうちのチームに入団してもらいたい。すぐに答えを出せとは言わないから、(ほとぼり)が冷めたところで少し考えてみてよ」 中年男性はやんわりと相好を崩す。その顔はどこか頼りなさそうで、仄かな疲労の色も浮かんでいる。
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