珠音のやりたいこと

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「また頃合いを見て会いに来るね。その時はよろしく」 佐藤さんが会釈するのに合わせ、私も軽く頭を下げる。プロ野球選手の道に進む。これまで考えてもみなかった選択肢を突如として与えられ、私は困惑するばかりだった。 自分がプロ野球選手になる姿など想像も付かない。どうすれば良いか分からず、後日補習で登校した際に杏玖に相談してみる。 「プロにスカウトされた!? 凄いじゃん」 教室の椅子に腰掛けた杏玖は、右肘を背もたれに乗せて半身の体勢になる。私はその後ろの席に座って話す。 「……で、どうするんだよ?」 「それが分かんないだよねえ……。杏玖はどうすれば良いと思う?」 「何言ってんの。そんなの私に聞かないで自分で決めなさい。珠音の進路なんだから」 至極真っ当な意見を返された。だが今までの私は、自分の意思をほとんど持つことなく生きてきた。亀高に入った理由も家が近かったからで、偶然にも女子野球部があったから中学の流れで入部しただけだ。逆を言えば他に近い高校があったらそちらへ行っていたし、女子野球部が無かったら野球を続けてはいない。私はまさしく、風の吹くまま気の向くままの人生を歩んできた。 となれば、今回も流されるままプロに行くのもありではないか。……いや、それが駄目なことは流石の私でも分かる。真面目に考えなければ。 「ねえ杏玖。進路ってさ、どうやって決めるものなの?」 「え、そこから……。珠音はこれまでどうしてきたの?」 「うーん……。流れに任せて」 「なんじゃそりゃ。まあ珠音らしいか」 杏玖の肘が背もたれからずり落ちる。それを見て私が顔を綻ばせると、「笑い事じゃないから!」と一蹴される。
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