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「……あ、さ、佐藤さん。こんにちは」
「お、覚えててくれたんだね。どうだい? エクスプレズの件、ちょっとは考えてくれたかな?」
「はい。……けど、まだ答えは出せてません。ごめんなさい……」
私は正直に回答し、謝罪の弁を述べる。ところが佐藤は何故か、嬉しそうに目を細めた。
「そうか。でもちゃんと考えてはくれたんだ。最初はあんまり興味無さそうだったのに」
「え? ……ああ、言われてみれば」
「ふふっ、断られるの覚悟で来たけど、これなら少しは可能性がありそうだね。紅峰さんにはどうしてもチームに入ってもらいたい。あれほどのパワーの持ち主はプロでも中々見られないからね」
「そうですか……。ありがとうございます」
佐藤さんに褒められ、私は少しばかり頬が緩む。実力を認めてもらえているのは素直に嬉しい。
「ただ私たちとしても、いつまでも待つわけにはいかない。一ヶ月後、また紅峰さんに会いに来る。その時に正式な回答を貰って良いかな? もしもそれより早く結論を出せたなら、名刺に書いてある連絡先に電話してくれて構わない」
「わ、分かりました……。検討します」
当たり前だが、いつかは答えを出さなければならない。期限は一ヶ月後に設定された。いよいよ本気で決断しなければならない。
とは言うものの、何をしたいのか、何になりたいのかが全く分からない有様。これでどう答えを出せというのか。しかし十日ほど問答を繰り返す内に、私は一つの疑問に辿り着く。
“私は何故、野球を始めたのか”
小学生から今まで当然のように野球を続けてきたが、始めたきっかけは何だったのか。私はある日の休日、自分の部屋に飾られていた少年野球時代の写真を見ながら遠い記憶を呼び起こしてみる。
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