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《マウンド上には三番手の波多。七回裏、ランナーを二人出して一、三塁のピンチを迎えておりますが、既にツーアウトは取りました。カウントはツーボールツーストライク。次の投球が七球目となります》
テレビに映る姉の姿は、いつも精悍で勇ましかった。
《サインが決まった波多、セットポジションから足を上げて、投げました! ……空振り三振! 波多、最後は伝家の宝刀チェンジアップで、見事にピンチを切り抜けました!》
マウンドに集まってくる仲間と、姉がハイタッチを交わす。その瞬間を見る時の私は、決まって嬉しさと共に言葉では形容しがたいほどの羨ましさを覚えていた……。
私、波多美輝には、海羽という五つ上の姉がいる。姉妹揃って野球をやっている私たちだが、姉は高校卒業と同時に社会人チームに入団。それを機に私は姉の活躍をテレビで見るようになった。
自分も姉のような選手になりたい。いつしか私はそんな思いを抱くようになっていたものの、中学生だった当時のポジションは内野手。他のチームメイトが全員男子という中で、女子の私が一から投手を始めることは現実的でなかった。
亀高に入学してからも、私は内野手としてプレーする。一学年上には空さんを始めとした好投手がおり、別の中学で投手を務めていた同級生の杏玖ですらほとんどマウンドに上がれない。とてもじゃないが私にチャンスがあるとは思えなかった。
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