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結果的に、今は野球を続けて良かったと言える。私はその年の夏大で代打として活躍。準々決勝では勝ち越しタイムリーヒットを打ち、勝利に貢献した。
最上級生に上がると再びレギュラーとなり、主に二番打者を務めた。三年生の夏大でもサヨナラ打を放つなど、個人の成績に限れば満足の行く一年が過ごせた。
ここからは風の噂で聞いた話になるが、私は紗愛蘭とのレギュラー争いに敗れた後、そのまま物語からはフェードアウトする予定だったそうだ。他の主な登場人物が実在の選手やら某特撮ヒーローやらから名付けられているのに対して、私だけ“増川洋子”という何の変哲も無い名前なのは、これが所以である。
だが私は、そんな逆境を覆した。そして他の三年生の先陣を切り、今こうして後日談のトップバッターを務めている。
私は作者に一泡吹かせてやったのだ。どんなに苦しくても、辛くても、諦めず踠き抜けば必ず希望はある。それは野球だけではない。今後の私の人生全てに言えることだろう。
「ありがとうございました」
補習が終わった。家に帰ったらまた勉強だ。三年生の夏まで部活をやっているのは野球部とごく少数の部活動だけなので、受験生としての私は他に比べて取り掛かりが遅くなっている。進む道は定まっていないが、少しでも後れを取り戻すために止まっている暇は無い。
「さあ来い! バッターここまで飛ばせー!」
外に出ると、女子野球部の練習がまだ続いている。現在はシートバッティングの最中。守備に就いている野手はそれぞれが大きな声で打球を呼んでいる。私の守っていたセンターに入っているのはゆりだろうか。夏大では以前の私と同じように代打で存在感を示していたし、新チームではレギュラーを張れるよう頑張ってほしい。
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