美しく輝け

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 ところが次第に状況は様変わりする。チームで安定して投げられる投手が少なくなり、杏玖が登板する機会も急増。春になって入部した新入生も正式な投手は真裕のみで、駒不足なのは誰が見ても明らかだった。  これなら望みはあるかもしれない。そう思った私は、投手への挑戦を考え始める。だが簡単に決断できるだけの勇気は無い。そこで一旦、姉に相談することにしたのだ。 「投手をやりたい? 良いじゃん、やってみなよ」  普段は横浜で一人暮らしをしている姉だが、遠征などがあると実家に帰ってくる。その際に私が投手をやることがどう思うか、聞いてみた。返ってきた答えは、驚くほどあっさりとした肯定。決して適当にあしらわれているわけではない。姉には竹を割ったような一面があるので、時折軽く言っているように見えるだけだ。  姉はほとんど嘘を言わない。私に対しても、いや、私だからと言うべきか、お世辞抜きの物言いをしてくる。だからこの意見も信用して良いだろう。しかし私としては、もう少し後押しが欲しい。 「姉貴はさ、どうしてピッチャーをやろうと思ったの?」  私は続けて姉に問う。姉は中学の時から投手としてマウンドに上がっていた。男子に混じってプレーしていた中、どういう過程でそうなったのか。 「どうしてってほど大それた理由なんて無いよ。ピッチャーやりたいって思ったからやっただけ。うちのチームは緩かったし、志願したらすぐ投球練習ができたよ」 「……そうなんだ。姉貴らしいね」  確かにチームの雰囲気もあったのかもしれないが、そこで躊躇わず申し出られるところが姉の凄さである。こういう部分も尊敬しているし、見習わなければならない。
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