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「逆に聞くけど、美輝はどうして投手がやりたいと思ったの? しかもこんなタイミングで」
「私も結構前からやりたいとは思ってたんだよ。でも自分にできるのかっていつも不安になってさ、それで誰にも言い出せなかったんだよね」
私は姉と違って臆病だ。それに自信も無い。こんな人間が投手をやっても良いのだろうかと、今の今まで何度も二の足を踏み続けている。
「ずっと前から思ってたのか。だったら尚更やるべきだよ。やるとしたら今しかないかもだしね。美輝なら大丈夫。きっと良いピッチャーになれるから」
姉は子どものように無垢な笑顔を見せる。グラウンドでは常に必死の形相で戦い続けていても、家にいる時はとても穏やかな表情をしている。私はどちらの姉も好きだ。
「……そうかな。なら姉貴の言葉を信じてみるよ」
「お! 応援してるよ。困ったらいつでも相談に乗るから、安心してね」
「うん。……ありがとう」
こうして姉に背中を押され、私は投手への挑戦を決断。監督に直訴して二年の六月から本格的に投球練習を行うようになる。その年の夏大には間に合わなかったものの、最上級生に上がった新チームでは真裕に次ぐ二番手の座を勝ち取ることができた。
迎えた最後の夏大でも多くのイニングを投げさせてもらい、自分で想像していた以上の結果を残した。優勝できなかったことは残念だったが、悔いはほぼ無い。
そして野球部を引退し、私は次のステージに進むこととなる。もちろん野球は続けるつもりだ。
問題はどこでやるか。姉と同じように社会人チームへ行く選択肢もあるが、私にはそんな高いレベルでやっていける実力はまだ無い。それにせっかく亀高を卒業するわけなので、大学には入っておきたい気持ちがあった。そういった部分を踏まえ、私は希望する進学先を導き出した。
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