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もう私はあの中に入れない……。そう考えると寂しさと悲しさは増すばかりだ。急に喉元が詰まり、少しでも気を抜けば醜態を晒すことになると思ったので、私はそそくさと校舎を後にした。
帰宅した私はシャワーを浴びて昼食を済ませ、リビングで補習の内容を復習する。今日は家族が全員外出していることもあり、自分の部屋を使わなくても十分に集中できる。
ところが勉強を始めて何分か経ったところで、突然スマホがバイブ音を鳴らした。電話が掛かってきたようだ。
「誰だ?」
着信元は天寺空さん。一学年上の先輩で、亀ヶ崎の元エースピッチャーである。卒業後は関西経済大学に進学し、野球を続けている。
「もしもし?」
いきなりどうしたのだろうと思いつつ、私は電話に出た。空さんとは今夏の決勝で顔を合わせているので、久しぶりに話す感覚は無い。
《もしもし、空だけど。今大丈夫?》
「はい。大丈夫ですけど……」
私は広げていた参考書を一旦閉じる。電話の向こう側は野球の練習中なのか、バットの金属音などが忙しく鳴っている。
《洋子ってさ、進学希望?》
「ええ。そもそもうちの高校は進学前提じゃないですか」
《確かに。晴香は例外だもんな。でさ、どこ行くか決めてんの?》
「いや、まだです。野球に必死で、そこら辺はあんまり考えてませんでした」
《そっかあ。……ならさ、うちに来ない?》
「え?」
寝耳に水とはこのことか。私は思わず素っ頓狂な声を上げる。
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