優しい関係を築くために

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『優築ちゃんって、何かいつもむすってしてるよね』 『うん。笑ってるとことか見たことないもんね。遊んでても全然楽しくなさそう』  小学生くらいからだろうか。こうした陰口が聞こえるようになったのは。幼い頃から表情の乏しかった私に対し、周囲はどこか冷たい視線を向け、近寄り難そうにしていた。 『ママが言ってたけど、ああなっちゃうのって、家族と仲が悪いからかもしれないんだって。だからあんまり触れちゃ駄目なんだよ』  別に遊んでいて楽しくないわけでもなければ、家族と不仲なわけでもない。単純に感情を口にしたり表に出したりするのが苦手なだけで、どうしてそこまで言われなければならないのか。腹立たしい気持ちも無くはなかったものの、いちいち相手にするのは面倒だと放置していた。そのせいで一層他人を遠ざけることになったわけだが。  しかし小学五年生で野球を始め、中学に上がって捕手に転向すると、事情は一気に変わる。表情が変化しないことが、チームメイトには評価されたのだ。 「優築って無表情なところが良いよな。ピンチでも慌てないし、キャッチャーとして守ってくれてるとめっちゃ安心感があるよ」 「確かに。最初はちょっと怖い感じがあったけど、喋ってみたら全然そんなことなかった」  チームメイトからは私が常に落ち着いているように見えるらしい。自分としてはそんなつもりなど無いが、どんな理由であれ頼られていることは素直に嬉しかった。  進学先の亀ヶ崎でも、チームメイトは私に分け隔てなく接してくれた。陰口を叩かれることなどもちろん無い。幼い頃の経験からは想像できないほど充実した日々を送るようになり、野球部以外の交友も徐々に広まっていった。
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