心を見つめる

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「朔さん、あのっ……」  リビングのソファに下ろされても、更紗の身体は朔に拘束されている。きつく抱きしめられたままで、一向に解放される気配がない。 「私、何か……」 「更紗」  朔の強い視線が更紗を捕らえる。  この瞳に見つめられると、更紗は身動き一つ取れなくなる。じわじわと熱くなる身体、苦しいほどに暴れる心臓、自分を抑えられなくなるのだ。  更紗は朔の首に腕を回し、自ら唇を合わせた。それに応える朔の口づけが深くなる。二人の呼吸は徐々に乱れ、更紗の身体はいつの間にかソファに横たえられていた。  朔の指が更紗の髪を梳き、頬を柔く撫でる。触れられた場所が熱を持ち、さらに鼓動が激しくなっていく。 「んっ……ぁっ……」 「更紗……更紗……」  譫言のように何度も名を呼ばれ、その度に心が震える。もっと近づきたいと腕に力がこもり、朔を引き寄せようと必死に引き寄せる。しかし、なかなか望む距離を得られず、更紗の瞳にじわりと涙が浮かんだ。  朔の唇が、涙袋の辺りに触れる。 「泣くな」 「もっと……」 「もっと?」 「朔さんの近くに行きたい」  真っ直ぐに朔の瞳を見つめ、更紗は懇願する。朔はきゅっと眉根を寄せ、今にも泣きそうな顔になる。 「これ以上……どうやって近づくんだ」 「……だって」 「更紗」 「……好き」 「……っ」  傷ついてボロボロになっていたところを助けられたから? 月読命から力を与えられ、狛犬に嫁ぐことを運命づけられたから?  理由などどうでもよかった。更紗の気持ちは、もう完全に朔に傾いている。 「朔さん……欲しい」 「更紗……」 「朔さんが……欲しいの」  こんなにも強く欲しいと思ったものなどない。欲しくて、欲しくて、それをねだったことも──。  紛うことなき今の自分の正直な気持ち、そしてそれを口に出してしまったことへの羞恥に、更紗は強く目を閉じる。朔の反応が怖かった。  みっともないと思われただろうか。浅ましいと思われてしまっただろうか。  しかし、そんな更紗の不安は、瞬く間に消え去ってしまった。 「んぅ……っ……ぁっ……ん」  噛みつくようにキスされたかと思うと、朔の舌が更紗の口内に侵入し、更紗はいいように蹂躙される。息が上手く継げず、すぐに苦しくなる。朔はほんの僅か離れても、すぐにまた深い口づけを繰り返す。飲み込めずに口端から流れる銀糸までも絡めとられ、更紗の意識は朦朧としていった。 「更紗……」  聞いたこともないような朔の甘い声に、更紗の全身に電流が駆け抜ける。小さく漏れた喘ぎさえ、すぐさま朔の唇に吸い取られた。  くたりと力の抜けた更紗の衣服に朔の手がかかる。更紗の身体は、期待と喜びで震えていた。  だがその時、リビングのドアから大きな音が聞こえた。二人はハッとし、ドアに目を凝らす。 「ウォンウォンウォンッ!」  最初に聞こえたのは、ツキが爪でドアを引っ掻く音。そして今は、大きな声で鳴き、己の存在を主張していた。
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