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陽が素っ頓狂な声をあげる。春南もただ呆然とするばかりだ。そんな二人に、司狼が自分たちの考えを明かす。
まず、ツキは月読命の神使であり、月川神社を離れることはない。これが大前提だ。
先ほどは悪霊たちに攻撃されてしまったが、あれしきのことでどうにかなるツキではない。だが、少々厄介なことがあり、すぐには戻れなかったと思われる。そのうちに、更紗が敵の手に落ちてしまう。それでツキは、自分の気配を消したのだ。
「だから! ツキが気配を消す意味がわかんねぇ!」
癇癪を起こして叫ぶ陽だが、春南の方は気付いたようだった。陽の腕を強く掴み、陽を見上げる。
「違うわよ! 気配を消さなくちゃいけなかったの。だってツキは、更紗さんと一緒にいるから」
「ええええっ!?」
陽が朔と司狼を見ると、二人も春南の言葉に頷いていた。
「情けないな、陽。春南の方がちゃんとわかっとるじゃないか」
「いや待てよ、親父! 更紗さんがここにいるなんて突拍子もない話が出てきて、訳わかんなくもなるだろ!」
「ならない」
「うるせー、朔!」
陽は不機嫌な顔で頭をぐしゃぐしゃにしている。よほど混乱しているようだ。
「ツキは更紗を守るために気配を消した。敵に悟られるわけにもいかないだろうからな」
独り言のように呟いた朔に、陽は頭を掻きながら言う。
「お前の言ってることはさ、月川神社の敷地内に敵のアジトがあるってことだぞ? そんなもんあったら、俺らが……」
「あるじゃない、アジト」
それには春南が答えた。
「は?」
「現世と幽世の境界。そこから悪霊たちが現世に押し寄せてこないよう、月読命様は陽たちに退治を命じてるんでしょう?」
「……そうだけど」
「更紗さんとツキがいるのは、ちょうどその境界なんじゃないかしら?」
「そうだ、春南。私と朔はそう考えている」
「マジかよ……」
陽が情けない顔で机に突っ伏した。春南は苦笑しながら陽の背を撫で慰めるが、朔は冷ややかな視線を送っている。
「攫われた=遠くにいるっていう図式が陽の中にあるんだろうが、固定概念に捕らわれすぎだ。お前、イラストレーターなんて仕事やってるくせに、頭固いな」
「わーーー! 弟が苛めるー!」
「朔さん、そのくらいにしてあげてください……」
春南のとりなしに朔はフイと横を向くが、それ以上は言わなかった。そんなことより、考えなくてはいけないことがある。
どうやって更紗を救出するかだ。
ツキが側にいるなら、更紗の身の安全は保証されている。更紗に害をなそうとするものを、ツキは許さない。
だが、ツキが姿を見せたが最後、悪霊たちが一気に襲い掛かってくるだろう。それをツキだけで何とかするのはあまりにも厳しい。
「おそらく、向こうから何か仕掛けてくるだろうな」
司狼に言葉に、全員が注目する。
「下弦の月か?」
陽の問いに、司狼は首を横に振った。
二人の力が最弱になる日を狙うのが、向こうにとって最良のはずだが。
司狼以外の全員はそう思っていた。
「なら……いつなんでしょう?」
春南がおずおずと尋ねると、司狼は抑揚のない声で告げた。
「次の満月だ」
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