月満ちる決戦の刻

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「ツキ、力を貸して」  小さく呟く。 『当然だ。そのために我はいる』  空耳かもしれないが、遥か高みの方からツキの声が聞こえた気がした。更紗は上に向かってコクリと頷き、二人の姿に視線を移す。そして、息を呑んだ。二人の側にはツキがいたのだ。 「ツキ……」  見たことのない姿をしていたが、ツキだとわかった。  成人男性としても大柄な二人を包み込んでしまうほどの大きさ、あの可愛らしい子犬の姿とは似ても似つかない。その大きさもさることながら、見た目も完全な大人の狼だった。銀色に輝く毛並みは何とも言えず美しい。  ツキは、敵の攻撃を鮮やかに避けて返り討ちにしていく。滑らかにしなる体躯を自由自在に操るその姿は、雄々しく気高い。  ツキのサポートを受け、二人の動きもこれまで以上にキレとスピードが加わっている。一つ一つの攻撃に無駄がなく、洗練されていた。二人の連携に、次から次へと溢れ出る悪霊たちが薙ぎ払われていく。 「グアアアアアッ!」  ツキと陽と朔に立て続けに攻撃され、ついに牛鬼は粉砕し、元の姿に戻れなくなった。それと同時に、他の悪霊たちの勢いが衰えていく。 「今だ!」 「ツキ、穴を塞ぐぞ!」  陽と朔が、緩んだ結界に開いてしまった穴を閉じていく。その側には司狼がいた。朔は、まだ残っている悪霊たちから司狼を守っている。  重い扉が閉まるように、ゆっくりと穴が塞がっていく。歯を食いしばる陽の表情から、かなりの力を放出していることが窺えた。  ツキと陽が穴を塞いでいる最中にも、悪霊たちは最後の力を振り絞り、攻撃を仕掛けてくる。だが、それはことごとく朔に阻止されてしまう。あまり力のない悪霊とはいえ、本来の力がほとんど出せない状況で朔も肩で息をしていた。皆が必死で、今ある以上の力をギリギリ絞り出しながら戦っていた。 「お願い……早く閉じて」  一刻も早く穴が塞がるよう、更紗は祈り続ける。  早く、早く、早く──。 「塞がった! 親父!」 「よし!」  ようやく穴は閉じられた。  陽と司狼が立ち位置を交代し、今度は司狼がツキとともに強力な結界を施していく。眩い光が四方八方に飛び散り、目を開けていられない。  離れた場所でもこれほどなのだ。側にいたならどうなっていたことか。  更紗は薄目を開け、結界が張られている様を目に焼き付ける。  神々しい光はますます勢いを増し、辺り一面を明るく照らす。昼間のような明るさに、頭が混乱してしまう。さっきまでは雨雲が月を隠してしまい、真っ暗闇だったというのに。  太陽のようなその光は、やがて大きく弾け、徐々に穏やかになっていく。少しずつ、少しずつ小さくなり、最後はろうそくの炎が消えるように、フッと静かに消滅した。
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