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「そういえば」
ふと思い出し、景吾は立ち止まる。
「あのケーキ、林檎の見た目してたけど、味が林檎っぽくなかったな」
「よく気づきましたね」
沙羅は口元に手をあて、上品に笑う。
「あれは、いちごで作ったんです」
「あぁ、どうりで……」
味を思い出し、納得する。林檎にしては酸味が強いと思っていた。
「いちごにも、花言葉があるのか?」
「おや、貴方から聞いてくるとは」
沙羅は一瞬目を丸くすると、景吾の前に立ち、触れるだけのキスを落とした。
「いちごの花言葉は、【尊重と愛情】、【あなたは私を喜ばせる】そして……」
言葉を区切ると、景吾を抱きしめた。力強く、どこにも行かせまいと言わんばかりに。
「【幸福な家庭】。ねぇ、そろそろ結婚しませんか?」
恥じらいもなく言う沙羅と彼女の微笑に、顔が見る見る間に熱くなっていく。耳まで真っ赤になっているのを自覚し、更に熱くなる。
「そういうことは、俺から言おうって決めてたのに……」
景吾はすねたように言うと、小さく息を整え、真剣な目で彼女を見つめる。
「明日、指輪を買いにいこう」
「明日? 明日は仕事ではありませんでしたっけ?」
「理事長の娘にあんなことしといて……。まぁ、いいや。職場、変えようと思って」
「そうですか。それなら、明日は久方ぶりに逢瀬と行きましょうか」
ふたりは明日の予定や結婚後の話をしながら、帰路を辿る。
(沙羅の愛情はあまりにも重たいけど、裏切られるよりはよっぽどいい。これから沙羅とふたりで幸せになろう)
過去の苦い経験を捨て去るように、景吾は沙羅に不意打ちのキスをした。
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