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「オレ、相棒を探してきます。あんたも暗いですから、気を付けて下さいね」
「……む………いる」
「え――?」
「向こうに、人が、たくさん、いる」
掠れた男の声が暗闇に響く。持ち上げられた腕は真っ直ぐに前を示す。つられるように視線を向けるが、暗闇で何も見えない。
ライトを向けても、わずかに先が明るくなるだけで人は見えなかった。人がたくさんいるというのなら、相棒もいるのかもしれない。オレは男が示す方向に行ってみることにした。
「教えてくれてありがとうございます。行ってみますね」
「おれ、が、案内、する」
「いいんすか!ありがとうございます」
ぎこちない話し方に、男はやはり人と話すのが得意ではないのだろうと結論付けた。それなのに親切に案内してくれる男はきっと良い人なのだろう。動き出した男の光りを頼りに、オレも停めていたバイクを引いてついていくことにした。
オレはこの時、暗闇でパニックになったことで相棒からの忠告を忘れていた。
このトンネルはヤバい場所なのだということを……。
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