第三章 トンネル

20/33
前へ
/249ページ
次へ
※ ――ズッ、ズッ、ズッ。  男から何かを引きずる音がする。  光が揺れる度に聞こえるソレに、オレは不安が募る。何の音だろうか。  それに……。さっきは気づけなかったが、鼻をつく、血のような匂いがする。  ずっとしている訳ではなく、時折トンネル内を吹く風にのってかおってくる。誰か怪我でもしているのだろうか。ふと、そういえばさっき首に付いた液体が何だったのか確かめていなかったと思い出す。  ハンドルを持ったまま、なんとか携帯のライトで手のひらをかざす。  手のひらに伸びるように付いたソレは黒くて、よく見ると―― 「うわっ」  血だった。乾いた血がこびりついている。首をもう1度触るが、オレが怪我をしているわけではない。  じゃあどこから血が……。ピタリ、とオレの足が止まる。連動するように、前に揺れる光が止まった。 「どう、しました?」  そうだ。オレの首に液体が垂れた時、男はオレの真上からオレのことを見下ろしていた。男から、血がつたってきたのではないのだろうか。オレは、震える手でライトをかざす。  今度は、光は動かなかった。  立ったままの男の足元を照らして、オレは息が止まりそうになった。
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加