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周囲から数えきれない嗤い声や話声が聞こえ始める。おかしい。人なんているはずが……。
さっき、男は「人がたくさんいる」と言った。
人が……?足元を見て、オレは絶句する。大量の手が地面から突き出していた。さっきの比じゃない。
手から離れようと後ずさると、背中は壁。正面にいた男が1歩踏み出すと、手は道を作るようにサッと引いた。男からオレまでの道が出来上がる。
もう、ライトで照らさなくても、手はよく見えて、あぁ、これが霊が視えるということなのだとオレは現実逃避をする。
ズッ、ズッ、と足を引きずった男はオレの目の前にまで来ていた。男は相棒と同じくらいの身長で、痩せ型。重症を負っているのだから突き飛ばせば逃げられる。頭ではわかっているのに、虚ろな瞳に見つめられるとオレの体は金縛りにあったように動かなかった。
逃げなきゃ、焦りばかりが募る。男が血だらけの手を伸ばし、オレは顔を背けた。
『魂を貰おうと思ったけど、やっぱりカラダも貰おうかな』
「え――?」
聞いたことのある少女のような声。オレは男へ視線を戻した。虚ろな瞳なのに、何故かさっきよりも男の存在がハッキリしているように見えてオレは困惑する。
『この前は喧嘩屋さんに邪魔されちゃったけど、今はいないし。あなた、とってもいいカラダしてるからちょうどいいわ』
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