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『願いごと、叶えたよ』
最後に姉ちゃんの電話から聞こえたのは、知らない少女の声だった。その言葉だけで、電話の向こうで姉ちゃんに何が起きたのか予想がつく。
通話は繋がったまま。少女の声も、姉ちゃんの声も、もう聞こえない。それでも、もしかしたら俺の勘違いかもしれないと耳を澄ました。
けれど、待てども姉ちゃんの声が聞こえることはない。次第に騒がしくなっていく電話の向こう。
『人が轢かれてる…』
『救急車はまだなんですか?』
『どうしてこの人裸足なんだろう』
聞こえてきた話し声に俺は茫然とする。最悪の予想が当たってしまった。俺はただ携帯を握っていることしかできない。
視線の先には見慣れたアパートのワンルーム。大学入学を機に一人暮らしを初めた部屋には必要最低限の物しか置かれていない。点けっぱなしだったテレビには深夜番組が流れ、知らない芸人が世界一臭い食べ物と格闘していた。
電話の向こうでは救急車のサイレンの音が大きくなり、深夜だというのに喧騒も大きくなっていく。
『携帯が繋がっている!――もしもし?あの、この女性の知り合いの方ですか?』
「……はい」
緊張を含んだ男の人の声が鼓膜を揺らす。俺は掠れた声で答えた。
「知り合い、というか家族です。あの、姉ちゃん……いや七海に何があったんですか?」
本当は聞かなくてもわかっているくせに、それを否定して欲しくて答えを待つ。小さく息を吐き、救急隊員だと名乗った男は端的に告げた。
『あなたのお姉さんは、車に轢かれました。体中を強く打っていて、意識不明の重体です。今、病院に向かっている最中です』
あぁ、やっぱり。俺の視界は回り、すぐ側のベッドに手を付いた。心臓の鼓動がうるさい。
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