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『ガードレールを超えて道路に飛び出してきたそうです。目撃者によると、後ろを何度も振り返って何かから逃げているように見えたと……。寝間着姿で、靴も履いてなく、警察が現在調べていますが、事件の可能性も――』
説明の声が右の耳から左の耳へと通り抜けていく。事件なんかじゃない。調べたって何も見つからない。
『大変申し上げにくいのですが、お姉さんの容体はひどく、その、非常に危ない状態です』
俺は救急隊員から病院を聞くと、手早く私服に着替える。いつも羽織っている白のシャツを掴んでそのまま走り出した。
病院につくと姉ちゃんは手術が終わり、集中治療室に入れられていた。俺は廊下で泣き崩れる母さんに駆け寄った。
「拓海、七海が、七海が……」
「うん。全部救急隊員の人から聞いた。……姉ちゃんの容体は?」
「今夜が山場だと医者が言っていた」
母さんを支える父さんの顔色もひどかった。きっと俺も同じくらい顔色が悪いのだろう。俺はガラス越しの姉ちゃんを見る。たくさんの管に繋がれて、顔なんてほとんど見えないくらい包帯が巻かれていた。
「……これ、七海の携帯」
嗚咽を漏らしながら母さんに渡された携帯の画面は、液晶がバリバリに割れている。電源ボタンを押すと、かろうじて画面が映る。そこには俺がさっき姉ちゃんに送ったお札が映っていた。
このお札では、姉ちゃんの命を繋ぎとめることしかできなかった。
「くそっ」
ガンっと病院の壁を蹴りつけた。母さんも父さんは何も言わない。深夜の病院はひどく静かだ。
……静かすぎる。違和感に俺が顔を上げたのと聞き覚えのある少女の声がしたのは同時だった。
『あれ、おかしいな?どうして死んでないんだろう』
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