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いつの間にか母さんと父さんの姿は見えなくなり、やけに暗い病院の廊下の真ん中に一体の日本人形が浮かんでいた。
長い黒髪、つぶらな瞳、真っ赤な唇。
赤い着物を身に纏う人形はそのまま俺の目の前に移動してくる。すぐに距離をとろうしたが、鉛のように重くなった体は自由がきかない。迫りくる人形から目を離すことができなかった。
『これ以上近づけないや。……邪魔しているのはあなた?』
聞き覚えのある少女の声は電話の向こうから聞こえた声と全く同じだった。俺はコイツが七海を襲ったのだと確信する。体が動かなくてもやれることはある。人形を睨みつけて次の手を考える。
『しょうがない。今日のところは出直すわ』
「ま、待て!」
と、言った時には人形は跡形もなく消えていた。
人形の姿が見えなくなると体が動くようになり、辺りを見回すがどこにも人形の姿はなかった。音が、視界が戻ってくる。
どうやら人形の領域に引きずりこまれていたようだ。すすり泣く声に顔を向けると、すぐ側に泣いている母さんと母さんを支える父さんの姿。
俺はふらふらと姉ちゃんのいる部屋に近づいてガラスに手を付いた。
姉ちゃんは、人形の呪いを解いてしまって、呪われた。
今は俺が張った結界で命を繋いでいるけれど、時間の問題だ。元凶である、あの人形を祓わないと姉ちゃんは助からない。
「姉ちゃん、絶対助けるからな」
俺は携帯を取り出して、俺が知る限り一番頼りになる相手へと電話をかけた。
こうして俺は姉ちゃんを救うべく、日本全国を回り、人形の怪異を追いかけることになったのだった――。
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