【恋愛騎士物語】猫になったファウスト(2021年ハロウィン作品)

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◆◇◆ 「…………ト」 「?」 「ファウスト?」 「……ん」  ふと側で声がして顔を上げると、ランバートが心配そうな顔をしていた。場所はソファーで、そこに腕を組んで座ったまま眠っていたようだった。  自分の体を確かめてみると、ちゃんと人間の姿をしている。格好は寝起きの状態だったが。 「ファウスト、どこ行ってたんだ?」 「……あぁ、いや」  猫になっていた、なんて言ったら笑われるか寝ぼけているかだろう。  ふと思い出すのは猫の間の事。ふわりと笑うあのあどけなく幼く綺麗な笑顔だ。  手を伸ばして、頬に触れる。そしてふわりと笑った。 「悪い、少し寝ぼけているみたいだ」 「え?」 「黒猫、いなくなってるな」 「あっ! そうなんだよ! 何処行ったか知ってる?」 「いや。だがきっと、帰ったんだろう」  大事な人の側に。  起き上がると何でもない。特に体に異変もない。そのまま伸びをすると不意に、何かキラキラした物が床に散らばっている事に気づいた。  屈んで見てみると、それはあの指輪についていた水晶が砕けたもののようだった。  やっぱりこれは、あの指輪のせいなのだろうか。思い……だが、悪いものとはしなかった。おかげで大事な事を一つ知る事ができた。 「どうする? 昼を少し過ぎたくらいだけど、どこか行く?」 「いや、今日はこのまま過ごしたい。ランバート」 「ん?」  座るランバートの側に歩み寄り、そっと抱き寄せる。そして、ゆるゆるっと力を解いた。 「どうしたの?」 「お前に少し、甘えたい気分だ」 「!」  伝えるとランバートはビクリとして、その後で笑う。そして優しく頭を撫でて笑った。あの柔らかい表情で。 「甘やかしてあげるよ」 「あぁ」 「膝枕とかする?」 「いいかもな」 「本当に? あっ、マッサージとかもするけれど」 「マッサージもいいけれど、今日は側にいたい。気を遣わなくていいから、一緒になんでもない時間を過ごそう」  最近、そういう時間が少なかったな。大事な時間のはずなのに。  緩く笑ったランバートは、静かに頷く。そして二人、互いに体を預け合って座っている。最近何を食べたのか、どんな面白い事があったのか、先のイベントが楽しみだとか。そういう、ふわふわとした普通の話だ。 「夕飯は、久々に下町にでも食べに行こうか」 「いいな、それも。今日は賑やかだろうな」 「手、繋いでいいか」 「勿論」  今も側にある手を握って、握り替えされて、同じ時間を同じ視線で過ごす午後。不思議がくれた、温かな一時となった。 END
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