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 まさ、か……。 「───そ、ダークエルフの里の皆さんだぜぇ」  ちょ、  ちょっと……。  ちょっと、待ってよ───! 「しゅ、シュウジ───! だ、ダークエルフの皆だけは……」 「ん~? 何か言いたそうだな」 「おおおお、お願い!! お願いします!」  なんでもします!  どんなことでもします!  あれも食べます!  口でも、手でも、なんでもするから!! 「お願いします! どうか! どうか、ダークエルフの皆だけは!!」 「んん? 聞こえないなぁ?」 「お願い!! お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い! お願いします!!」  どうか!!  どうか!!  どうか! ダークエルフの皆だけは!! 「お願いしますーーーーーーーーーー!! どうか、皆だけは許してぇぇえええええ!」  必死で懇願するエミリア。  ダークエルフの里だけは!!……父さん、母さんだけは!!   そして、  ルギ──────……。 「あは。往生際が悪いわね───義姉さん」    え?  る───…… 「ルギ、ア───??」  懇願し、勇者の慈悲に僅かな望みをかけていたエミリアの心をズタズタに切り裂いて見せたのは……。  不敵に笑い、ダークエルフを追い立てている───白い肌と、長い笹耳、金髪と碧眼の女性……ルギアの存在だった。  ルギア・ルイジアナ───エミリアの大切な家族………………。 「る、ルギア! あ、あなたは無事───」  最愛の義妹が、拘束もされず、傷一つつかない様で勇者に並び立つ姿を見て、ホッと胸を撫でおろすエミリア。  だけど──────??  お、おかしい。  なんでアナタが、皆の首についた紐を引っ張ってるのか?  なんで帝国兵が、アナタに(かしず)いてるの?  それに───、 「……残念だったわね。義姉さん───。私はね、こっち側(・・・・)なの」  そう言って、勇者にしな垂れかかるルギア。  ねっとりと熱い視線を絡み付けている。  ……………………………え??  え?  ええ?  な、  なんで?  なんで、アナタがそこに?  さ、里に隠れていない!  そんな所じゃ、殺されてしまうわよ。  早く逃げなさい──────。  ルギ──────……! 「うふふ。悪いわね、義姉さん──────これはね、規定事項なの」  ふふふ、と楽しげに笑うルギア。  ……エミリアの家族で義妹の、はず。 「───そう、確かにあなた達は、何もしてないわ? 悪くもない。邪悪でもなければ、害悪でもない。……だけどね、滅ぼさなければならないの」  な、なにを言って───。 「だって、あなた達はダークエルフですもの───それが理由、他に理由はないわ? 本当に、たったのそれだけのことよ」  おま、え……。  さっきから何を──────。  る、 「───ルギアぁぁッ!!!」  愛しい、私の家族のルギア。  あぁ、きっと錯乱しているのね?  きっと、見た目からダークエルフじゃないと判断されたのよ。  良かった! 助かった!  いま、義姉ちゃんが助けてあげる。  身を呈して守ってあげる!  そして、今なら逃げられる。  勇者たちがアナタを拘束していないのがいい証拠───。  さぁ、早く!!  早く!!!  はやーーーーーーく!!!  だから、早く逃げ───……!  で、でも…………………………。  可笑しいな。なんでこの子の顔はこんなに邪悪なの?  ねえ、  る、 「……ルギア、だよね?」 「お久しぶりね、義姉さん。活躍は聞いているわ」  ふふふ。と見たこともない妖艶な笑みを浮かべて、シャラリシャラリと歩く───。  着飾っているのはダークエルフの里の質素な服ではなく、絹と霊糸で編みこまれた薄手のドレス。 「───はぁぁぁ、長かったわ……。ちょっとしたミスで魔族の地で過ごすことになったけど……。本当~~に長かった」  そう言ってエミリアに近づくと、優しく顎を撫でる。 「でも、それも今日で終わり───……。魔族が……そしてダークエルフが消滅するのよ。……本当に嬉しいわ」  何を……言っているの? 「───義姉さんも、もう無理はしなくていいのよ。魔族を最後の一人として見納めて、お逝きなさい」 「ルギ、あ……。アナタ何を言って───」  ヨロヨロと手を伸ばすエミリア。  だが、それをパシリと払いのけると言ってのけた。 「はっ! 汚らわしいダークエルフ。……一緒に息をしているだけで気が狂いそう。勇者───早く終わらせなさい」 「へーへー、お任せをー。ハイエルフ様のお召しの通り───」  え?  は、ハイエルフ(・・・・・)??  見れば、森エルフのサティラが片膝をついている。  帝国軍に混ざるエルフの兵士も恐縮しきっている様子が見えた。 「ふふふふ……。いつ、魔族を滅ぼしてやろうかと思ってウズウズしてたの。今か今かと待ち遠しくて、ちょっと遠出のつもりで魔王領を偵察にいったら、不死鳥(乗り物)がドラゴンに驚いちゃって、私は雪の上へ───」  「あとは知ってるでしょ?」そう、ルギアは言った。 「あぁ……辛い日々だったわ。汚らわしいダークエルフに優しくされて、温かい食事に、義理の父さんも母さんも温かくて、親切で、優しくて、優しくって、優しくって、優しくって、優しくって、とぉぉぉぉおぉっても、優しくて───」  ───反吐(へど)が出るかと思った。  ペッ!  美しい顔を歪めて、ルギアはエミリアに顔に唾を吐きかける。 「……挙句の果てに、仲良く遊んでくれた優しくて口下手の義姉(あね)ときたら、禁忌の死霊術士───あぁもう、毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日───毎日、殺意を押さえることに苦労したわ。何度家に火を放とうと思った事か」 「る……ぎ、あ」  これが…………ルギア?  こ、これが、あのルギアなの?  し、  知らなかった。  知らなかった───。  私はルギアのことを何も知らなった……。  ───コイツのことを知らなさ過ぎた!!  コイツの……!  コイツのことをぉぉぉぉおお!! 「──オマケに里の連中と来たら、千年の間にあんなに数を増やしちゃって。……あの千年の昔に、殺し尽くしておけばよかったわ」  そうとも、ダークエルフを魔族の地に追いやったのは、ルギア───。  千年前のルギアの所業。 「でも、よかったわ───。千年前のやり残しも、今日で終わりそうね」  里での日々が、脳裏にフラッシュバックするエミリア。  不安げな顔で両親に預けられた時のルギアを思い出し、ぎこちない笑みで迎え入れられた日。  名前も覚えていないと言い。記憶喪失だというルギア───。  そうして、見た目年齢の近さから、彼女の義理の姉となり、時には仲良く遊び───時には少し喧嘩もした。  死霊術士となった日には誇らしいと喜んでくれて、満面の笑顔を見せてくれた。  戦いに赴く日には、涙を流して抱締め合った───。  ルギア……。  ルギア───。  私の可愛い義妹。  愛しい私の家族…………。 「───あぁ……! 心がすくよう。温かい里のみんな。種族の違いも気にせず接してくれた優しい温かいダークエルフの里の皆」  すぅ……。 「───ありがとう! 心の底からありがとう!! そして、」  死ね──────。 「ダークエルフは、死ね」  ニッコリ。  心底嬉しそうに微笑むルギアをみて、 「る……。ル、ギ、ア!!!」  ルギア!!  こ、このイカレ女ぁぁあ!!  恩を!! 「───恩を……。恩を仇で返しておいて、アナタはそれで平気なの!!」 「平気よぉぉぉ……──だって、ずっっっっっと、ダークエルフのこと、殺したくて滅ぼしたくてウズウズしていたんですもの──」  あぁ、そうか。  そうか、そうか、そうか。  そうか!!!  そうかッッ!!!!!  今わかった。  理解した!  ───気付いてしまった!!  な、内通者は……。  本当の裏切り者は──────!!  魔族が苦戦し、帝国に蹂躙され───今、まさに滅びんとしているのはぁぁぁあ!! 「お前が仕業だったのかぁぁぁあ───」 「そーよぉぉお。私よぉぉぉお──。間抜けな魔族どもにトドメを刺してあげたのよぉ」  あははははははははは!!  美しく、醜悪に笑うルギア。  いや、違う──────。  今はルギアじゃない。  ルギアなものか!  こんな義妹が、いてたまるかッ!!  こ、 「───この裏切り者ぉぉぉおおおお!!」 「そーーーーーよぉぉお!! 裏切っちゃたのぉぉぉお!! ごめんねぇぇえ! あーははははははは! もちろん、ダークエルフの里を売ったのも私よぉぉおおお! あーーっはっはっは!!」  笑う。  嗤う。  わらうルギア!!  エミリアを指差し、大声で(なじ)る!  間抜け!  大間抜け!!  間抜けな魔族と、  ゴミクズ同然の、ダーーーーーーーーーーークエルフ!  そして、汚らわしい死霊術士のエミリア!  死ね!!  死ね!!  お前たちは、等しく死ね!! 「あはははははははははははははは! あはははははははははははははははは!!」  あーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!! 「はっはっはっはー…………」    ひとしきり笑い終えたルギア。  最後にクスリと微笑み、エミリアを詰るように見下ろすと、 「───ざーんねんでした、義姉さん。魔族の抵抗はこれで終わり───それでは、魔族終焉のパーティ……心行くまでお楽しみください」  優雅に一礼。  そして、  パチン! と指を弾くルギア。  その合図を見て、勇者たちと帝国兵が喜々としてダークエルフ達に襲い掛かる。  そ、そんな!!  や、やめろ! 「やめろーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」  絶叫するエミリア。  だが、帝国軍に止める道理はない。  誰も彼も、微塵もダークエルフに好意を持っていないのだ。  そして、帝国兵の中にはドワーフも、エルフもいる。  人間はダークエルフをそこまで忌み嫌ってはいないが、ドワーフはエルフそのものを嫌っているし、エルフ達はダークエルフを同族とは見ていない。  この場にいる全ての帝国兵に、ダークエルフを生かしておく理由など、何もないのだ。   「よ、よせ!」 「やめろ!!」 「た、助けてくれ───」  命乞いするダークエルフ達。  それを完全に無視して、捕虜になったダークエルフ達を勇者たちと帝国兵が競って殺し合う。  人の兵士も、エルフの兵士も、ドワーフの兵士も、ゲラゲラと笑いダークエルフを殺しつくす。  帝国兵が殺していく───!!  ゲラゲラとゲラゲラと。  阿鼻叫喚の悲鳴など聞くこともなく……。 「うわぁぁぁぁああ!! 皆ぁぁぁぁぁああ!!」  や、  やめて!!  やめてぇぇぇええ!!!  殺さないでぇぇぇえぇぇえええ!! 「ぎゃぁぁぁあああああ!!」 「やめッ、アブ───」 「痛い、痛い痛い痛───」  切り裂かれ、自分の血に溺れていくダークエルフ達。  闘志を振り起し、素手で反撃した若者はズタズタに八つ裂きにされる。 「やめて! 皆を殺さないで!! やめてぇぇぇぇえええ!!」  止めなきゃ、  抵抗しなきゃ、  何かしないと!!  何かッッ!!  必死に抵抗するエミリアをあざ笑うかのように───。 「無駄よぉぉお! 義姉さん───」  ケラケラと高笑いするルギア。 (コイツ…………!!)  コイツっっ!!  コイツっ!!!  コイツぅぅぅううう!!! 「るーーーーーーーーーぎーーーーーーーーーーーあーーーーーーーーーー!!」  コイツは……。  コイツは……!!  コイツだけは!!  コイツだけは、生かしておけないッ!  こ、こんな奴がいるなんて信じられない!  恩を、  大恩を、    命の恩人に対する敬意を!!  その、恩をぉぉぉぉおおお!!  ───返せとは言わないッッッッ!! 「───だけど、仇で返す必要がどこにあるのよぉぉぉおおおおおお!!!」  コイツは殺す!!  今すぐ殺す!!!  いや、  お前ら全員ぶっ殺してやる─────!!  ブチブチブチ、バッキィィィイン!!  再度拘束されていたエミリア。  だが、戒めを強化していたにもかかわらず、鎖を引きちぎる。  どこにそんな力があったのか、自分でもわからないほど。  それでも、エミリアは駆けだす。  元魔族の軍人───今は……。  今は元勇者パーティ(・・・・・・・・・)で、勇者の愛人!!  でも今は違う。  タダのダークエルフのエミリアとして駆ける!!  そして、死霊術士のエミリアとして駆ける!!  ダークエルフを守るため。  父と母と里の仲間を守るため、駆ける!!  駆けるッッ!!  駆け抜けるッッ!!  ──勇者の愛人? ペット?  ──勇者に心酔し鞍替えした裏切り者?  ──怨敵、勇者に抱かれた恥知らず?  知るかッ!!  知るかッ!!  知るかッ!!  私は、私の信じる道を進んだだけ!!  勇者を愛しただけ(・・・・・・・・)!!!  ただ、それだけだ!!!  結構ッ!!  何とでも言え!!  私は、一族の……ダークエルフの里の皆を愛している!!  そして、  私を倒し、一度は殺すチャンスがあったにもかかわらず、激しく抱いてくれた勇者シュウジを愛している!!  それの何が悪いッ?!  それが……。  それが、  それが、私だぁぁぁあああ!!  私には魔族とか人類とかどうでもいい!!  魔族のみんな、  そして、勇者様!!!  どちらも信じて、どちらも愛したッッ!!    それの何が悪いッッッ!!! 「───ルギアぁぁぁぁぁぁああああ!!」  だけど、  この女だけは殺す。  いや、  この場にいる全員を殺す───!!  殺すッッッッッッ!!    ただ、殺すッッッ!!  お前らのような奴は、ただ死ねッ!!  家畜のように死ねッ!!  私に出来ないと思ってるのか?!  私が無力だと思っているのか?!  舐めるな……。  舐めるな……!!  舐めるなよッッ!!  勇者に飼われて牙が折れたと思ったのか!  否。  断じて否ッ!  私は……、  ───私はアンデッドマスター(死霊術士)のエミリアだ!! 「来いッ」  来い……!  来い…………!!  ここに大量の死体と首があるということは周囲には浮かばれぬ霊がいくらでもいると言う事だ。  いくらでも。  いくらでも!!  いくらでもいる!!  だから、来ぉぉぉいい!! 「愛しき死霊たち……。私のアンデッド!」  ────ブゥン! 「なッ! ステータス画面だと!」 「ま、まさか、まだ使えたのか!! 魔力は搾りつくしたはず!!」  帝国の賢者グスタフとドワーフの騎士ロベルトがここで初めて動揺する。 「チッ、しぶとい女───!!」  サッと、精霊術行使の構えを見せる森エルフの神官長サティラ。  そうだ。  勇者パーティが臨戦態勢をとるほどにエミリアの魔術は脅威なのだ。  中空に現れたステータス画面には、エミリアの最大にして最強の魔術──死霊術(アンデッド)の文字が躍る。  来い!  来いッッッ!!  我が愛しき(しもべ)────アンデッドたちよ!  ……死霊召喚ッ。  アンデッド────!! 「ルギア────……この裏切り者ッッ」  お前は殺す!!  ここに浮かばれぬ魂がある限り、アンデッドは不滅だ!! 「死ねッ!! 全員死ね───!!!」  拘束された際に、魔力を奪う呪いを施されていたらしいが…………まだ、死霊術は使えるはず───。  そうだ……! 例え勇者に敵わないとしても、一矢、報いん──────!  と、  そこに、 「エミリア?」 「エミリアか?!」  ルギアに拘束された、両親の姿があった。
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