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 ゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタッ!!  ジワジワと侵食する、死霊の叫びを聞いたエミリア。  そして、いま──この場の全員を殺せるほどの死霊術を使うために! そして、Lvの上限を超えるために、エミリアは魂を捧げた。  死してなお、エミリアを気遣った両親の言葉を振り切り、今ここで死ぬ覚悟を決めた。  だから、わかる……。  アビスゲートの先───地獄の蓋が開き、そこに巣食う何者かがエミリアの魂を貪り喰らっている気配を感じる。  いいわ。  あげるわよッ!  この、汚れきった魂でいいなら持って行って!!  その代わり、  その代わり!!  ───その代わりにコイツ等を皆殺しにして頂戴!!  私の望みをぉぉおおお! 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」  ブワ─────────!!  アンデッドLv5→Lv6  レベルアップ!!  直後、召喚ステータス画面が表れ──、  ブゥン!!!!!! Lv6:英霊広域召喚 スキル:広域への英霊呼び出し。     取り付き、死体操作etc 備 考:武運拙く命を落とした英霊を召喚     他、周囲の英霊を集めることが可能       召喚された英霊は強い魔物や種族に     取付き生前の様に戦うことができる ※※※:Lv0→雑霊召喚    Lv1→スケルトン(生成)        地縛霊召喚    Lv2→グール(生成)        スケルトンローマー(生成)        悪霊召喚    Lv3→ファントム(生成)        グールファイター(生成)        広域雑霊召喚    Lv4→獣骨鬼(生成)        ダークファントム(生成)        広域地縛霊召喚        英霊召喚    Lv5→リッチ(生成)        スケルトンナイト(生成)        広域悪霊召喚    Lv6→ワイト(生成)        下級ヴァンパア(生成)        精霊召喚        広域英霊召喚    (次)    Lv7→ボーンドラゴン(生成)        中級ヴァンパイア(生成)        広域精霊召喚    Lv8→???????    Lv完→???????  ゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタゲタッ!!!  おぞましい声で笑い声をあげる英霊たち。  エミリアの身や、背から沸き出すようにあらわれる凄まじい数の霊魂! 「な?! ま、まずい!! 総員───死体を破壊しなさい」  エミリアの目的に気付いたロベルトが慌てて帝国軍に命じる。  だが、一歩遅かったらしい───。  地獄の底からさらにさらにと、笑い声が響き、そして地面から、あるいは中空に漂う魔族の英霊が次々に死体に生首に取り付き始める。  一度、冥府に帰ったはずの魂が、アビスゲートを通じて帰ってくる!!  門の先───漆黒の空間から流星のように青い光の粒子を棚引く霊魂が流れ出した。  幻想的な光景であり、鮮烈な光景だ。。    あはははははは! 「さぁ皆起きて──────。もう一度、一緒に戦いましょう……」  そっと死体を抱きよせるエミリア。  もはや勇者パーティにも、エミリアを組み敷いている余裕はないらしい。  全員が武器を持ち、全周を警戒している。  そりゃあ、そうだ。  ここは、あらゆる場所が死体で埋め尽くされている。  全て勇者たちがやった事──────。  だから、因果応報。 「な、なんてことだ! 数万のアンデッドを瞬時に生み出すだと?! な、なんたる力───」  ロベルトは恐怖しているのか、はたまた歓喜しているのか全身をブルブルと震わせている。  警戒し武器を構えているのはグスタフとサティラのみ。  他の帝国軍は、小グループに分かれて円陣を組むことしかできない。  なにせ、ここにいる帝国軍を圧倒できるだけのアンデッドの軍勢なのだ。 「は! やるじゃないか、エミリア──!」  勇者は腕を組んで仁王立ち。  かのルギアと背中合わせに構えている。  あわてて剣を抜いた帝国兵らが、エミリアを切り裂こうと、うつ伏せに組み伏せる。 (───今さら、もう遅いッ!! 私が死んだくらいでは死霊術は消えないッ!! 魂が食いつくされるまではアビスは閉じない)  ───行けッ!!!!!  愛しきアンデッド達よ───。  ドロリと濁った目を開け、起き上がろうとする魔族の死体。  首を失った死体は首を求めて。  惨殺された死体は無残な体で。  焼き殺された者はボロボロの身体で。  起きて、  起きた、  起きる。  ───ブルブルと震える魔族たちの屍。  彼らは冥府から叩き起こされ、不死の魂を受け取った、アンデッドの軍団ッッ!!  その数はこの場で死した魔王軍全てを覆いつくす程。  数万に上る魔族の死体が、余すところなく全て起き上がる───。 「あははははははは! あははははははははははは!」  あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!! 「あはははははははははははははは! あははははははははははははは!」  狂ったように笑うエミリア。  最後の戦いだ!  こんなもので勇者を倒すことはできないだろうけど、帝国軍や勇者パーティはタダでは済まないはず。 「な、なんて数だ!」 「ひぃぃぃ! こ、これがアンデッドマスターの真の力なのか?!」 「か、神よぉぉお!!」  さすがに動揺を見せた帝国軍が、慌てて臨戦態勢を取り始める。  だが、圧倒的にアンデッドの方が多い!! 「───いけ! 私の愛しきアンデッド。そして、魔族の皆! 私と共に、勇者たちを討とうッ!!」  ロォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!  死者の咆哮───。  アンデッドの叫び。  エミリアの心を満たすアンデッドの戦音楽(タムタム)!! 「勇者たちを滅せよ───」  ロォォォォオオオォオオオォォオオ!!  ロォォォッォォオオォォオオオオオ!!  数万のアンデッドが勇者達を───。  そして、  あの帝国軍全てを飲みこまんとする──!  死ね、勇───、 「くっだらない……」  吐き捨てる様に(のたま)うのは……。 「……る、ルギア?」  お前か───……ルギア  ふ、  ふふふふふふふふ。  ふはははははははははははははは!!  ───くっだらないかしらぁぁ?  負け惜しみは結構!  でも、もう遅いわね!!  今さら、裏切り者のアンタにこの状況が覆せるとでも?  無理よ───。 「無理ぃ! あはははははははははは! ルギアぁ! 無理よぉぉお」  そして、安心しろ。  お前だけは無残に殺してやる!  私にやったように最後に殺してやる!!  ズタズタに引き裂いて、皆の前にばら撒いてやるッ!!  お前では、発動した私の死霊術を覆せないぃぃぃぃい!!  …………エミリアは、そう確信していた。  だが、 「ふふふ。勇者よ。───このインクを使いなさい、死霊術を上書きしてやればいいわ」  場違いに冷静な声がしたかと思うと、ルギアが勇者に里の秘術である死霊術の特殊インクを差し出していた。  命を奪うだけでなく、里の秘術までルギアは奪っていたのだ。 「な、なるほど! 任せろッ!」  インクを受け取った勇者は、バリリとエミリアのボロ布を剥ぎ取った。 「な、何を!?」  さすがに羞恥によるものではないが、剣を突き立てるでも頭を踏み抜くでもなく、勇者はエミリアの刺青をむき出しにすると、  ───何の真似だ?! 「ゾンビの軍団はうんざりだぜ。……おまえら、見とけ? こうやるんだよ!!!」  ズブゥ───!!  勇者がエミリアの柔肌に爪を突き立て、「アン$%&」の入れ墨を、バリリリ!! と力任せに引きちぎる!!  ぎゃ、 「あぁぁぁぁああああ!!!」  だが、激痛がどうした!!  そんなもの、お前らに食らわされたものに比べれば────!! 「中途半端にやるから死霊術が消えないんだよ。ひゃははははははは! 見ろッ。『ア』は残して───」  次々に起き上がり、首を求めてうろつき始めた魔族のアンデッド。  だが、勇者はそれにも目くくれずインクを叩きつけた。  何の真似……?! (死霊術を作る特殊インク? 今さらそれが───)  ───そうだッッ、それがどうした!! 「───そうだッッ、それをこうする!!」  叫ぶ勇者が、  ベチャ! グリグリグリ────! 「こうして、こうして……こうだ!! ひゃは!! あ~ばよー、黒いエルフちゃん」  と、ばかりに、今剥がされたばかりの皮膚の下の傷と、勇者パーティがさっき傷つけた3つの生々しい傷跡にインクを塗り込んでいく。  すると、  ジュウウウウウウウウウウウ!!!! 「うがぁぁぁああああああ!!!」  白煙が沸き立ち、肉を焼くような気配。  4つの傷がインクを吸収していく。  『アンデッド』の文字が潰れ、『ア#$%&』の文字にインクが滲みこみ────……。  入れ墨の文字や模様が明滅する!!  その痛みッッッッッ!!!   「ぐ、ぐぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」  背中に無数の針を刺されるような激痛が走ったかと思うと、死霊術の刺青が肉の上で踊り、青白く明滅して、ジュクジュクと泡立ち始めた。 「おぉ! なるほど……さすがはハイエルフ様、そして勇者どの!」  ロベルトが感心したように、エミリアの背中をしげしげと確認している。 「なーるほど、召喚術の上書きか───いや、落書きかの」 「あらあら、素敵なサインじゃない──」  サティラの声に、勇者は上機嫌に答える。 「だろ? 見ろよ──これは、コイツのことだぜ」  そーだろぉ?  ぎゃーーーはっはっは!!  ぎゃははははははははははははははは!!  再びの哄笑。  そんなもの!  そんなものが効くか───!!  私の死霊術は不滅だ……。  魔力は、この命と引き換えにまだまだいくらでも……!  ドサッ。  ────…………え?  ベチャ……!!  ドザドサドサドサドササササササッッ!!  突如として崩れ落ちていく魔族のアンデッドたち────……。  エミリアの魂を貪り食っていた地獄の底が……そして、それらを呼びだしていたあの不気味な門扉が消えていく……。  アビスゲートが……。  そ、そんなぁ……。  そんな!!  あ、アビスゲートが──────消えていく?!  そして、わかる───。  なんてことだ、英霊たちの魂がない。  いや、───消えていく……。 「な?! あ……。あぁ! そんな、そんなッ!!」  そんな!!!!!  私の死霊術が!  愛しいアンデッド達が──────!!  皆の恨みが──────!!!!!!!  消える……。  消えていく……。  消えないで!!!  皆ぁぁあああ──────!!  勇者たちの哄笑を下で受けながら、エミリアの手が死霊を掴もうとして空を掻く。  私の死霊たち(アンデッド)……。  絶望の表情を浮かべたエミリア。  あれほどの激痛に耐え、魂さえ捧げた乾坤一擲の反撃は、あっさりと封じられてしまった。  だが、  だが!!!  まだ!!!!!  まだ私の魂は尽きていないッッッ!!!  アンデッドぉぉぉおおお──────!!  しかし、エミリアの魂の叫びはどこにも届かない。  冥府の門は開かない……。  どこにも届かず、エミリアはただ一人───。 「そ、そんなバカなッッ!! 私のアンデッド達が……?」 「ぎゃははは。バカじゃねぇよ。お前は『アホ』だ」  ゲラゲラゲラと笑い転げる勇者。そして追笑する勇者パーティ。  そして、さらに笑う帝国軍の兵士達。  彼らの前にはグチャグチャになった魔王軍の死体がある。  彼らはもう二度と動き出さない……。 「『アホ』だ」 「『アホ』だね」 「『アホ』ねー」  ゲラゲラ笑う帝国軍の兵士が、何を考えたのかわざわざ巨大な鏡をエッチラオッチラ運んでくると、 「お。気が利くじゃねぇか! ほら、エミリアみろよ……」  み、見る────?  見るって何を───……。  ゲラゲラ笑う連中と、ニヤニヤと肌を見る帝国軍の兵士の好機の視線に晒されて羞恥に塗れながらも、エミリアは見た。  鏡に映る自分の死霊術の入れ墨を──……  『ア』を残して、無残に破り散らかされた皮膚───。    そこに、  『ア#$%&』──────いや、違う。  その傷の上にべったりと大きく一文字。  『ホ』と……。  「ァ『 ホ 』」………………。 「あ、『アホ』って…………。アホって、アホって…………」  アホって……!!! 「────わ、私のことかぁぁぁあああ!」  ワーーーーーハッハッハッハッハッハ!!  ギャーーーーハッハッハッハッハッハ!!  ウヒャハハハハハハハハハハハハハハ!!  あーーーーーはっはっはっはっはっは!!  嗤い転げる勇者達。  エミリアを指さし、馬鹿にし、大笑い。  『アホ』───と上書きされた入れ墨に、侮蔑の一言を刻まれ頭に血が上るエミリア。  魂を賭けた一撃が不発に終わったばかりでなく、その魂と誇りを笑われた。  死霊たちを侮辱された……。  こ、  こんな!!  こんな屈辱は、耐え切れない────。  死霊たちとの繋がり、  そして、ダークエルフ最強として、……誇りとなったはずの死霊術。  それを辱め、傷つけ、バカにして────永遠に失わせた。  ああああああ……なんてことだ。 「し、死霊たちの声が……」  声が聞こえない──────。  上書きされた入れ墨のせいで、本来あった死霊との特性すら失われてしまったというのか……。  そ、そんなの……。    い、  いやだ……。  嫌だ!!  わ、私の愛しいアンデッド達───……。  その声が聞こえないッ!! 「あああああああああああああ…………」  もう、魔力を通しても何も反応はしない。  地獄の底から悪魔の笑い声は響かない……。  死体は永遠に動かない──────。  そ、 「そんな…………………………………………」  そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!  今日だけで、何度も何度も───最後にして最大の絶望を味わったエミリア。  彼女は帝国軍の笑い声を一心に受けながら、…………その心は、この日────死んだ。  快楽に溺れた愚かな魔族。  勇者の愛人。  ダークエルフ。  死霊術士。  ゴミ。  傷もの……。  『アホ』  彼女が短い人生の果てに得た物は、最大にして最低の汚名のみ────…………。
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