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イリュードさんは俺の手を観察して、一瞬ハッという顔をした。
「傷1つありませんね……赤くもなっていない」
俺はイリュードさんと同じ顔をして返事をする。
「私の魔力が弱まっている? いや、炎に強いタイプなのか……防御力が異常に高いのか……魔法の保護があるか……」
イリュードさんは俺の手を持ったまま、モニアさんのように呪文ではない何かをブツブツ言い始めてしまった。
「あ……あの、イリュードさん?」
「ああ、すみません」
イリュードさんは俺の手を解放した。
「炎はこう見えて生物にとって生命の存続を失わせてしまう程、危険なものなんです」
イリュードさんはそう言うと、袖から薄い肉のようなものを出してダンロに投げ入れた。
その物体はあっという間に燃えて無くなってしまった。
「今回何が原因で君に傷1つ付かなかったかは分からないですが、不用意に触れないよう気を付けてください」
「……すいません」
「あ、怒ったわけでありませんよ。色々と何が起きるか分かりませんので、少々心配しているんです」
「……ありがとうございます」
イリュードさんはフゥッと微かに笑みを浮かべると
「そういえば、君の呼び名も決めないといけませんね。名前がないと冒険者登録も出来ませんし。何より名前はその人をその人たらしめる、大切なものですから」
と言った。
「せっかくなので夕飯の時に、皆にも考えてもらいましょう」
イリュードさんはそう言うと、ドアの取っ手に手をかけた。
が、何かを思い出したかのように振り返って言った。
「あ、それと、私の名前。結構長いので気軽に"イル"と呼んでください」
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