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「ふふふ、それは私のことですか? モニアさん」
銀色の長髪男性が突然、モニアさんの肩越しから顔を出した。
モニアさんと同じ尖った耳をしている。
「ヒィッ!」
「おや、随分な反応ですね」
「す、すみません……少々寒気が……。高潔の氷帝がどうしてこちらにいらっしゃるんですか。まだ呼んでもいないのに……」
モニアさんは少しずつ男性から距離を取った。
「ふふふ、私の情報網を舐めて貰っては困りますよ」
姿勢を戻した銀髪の男性の顔の位置は俺の遥か上で、見上げなければならない程だった。
「ふーん、君が」
凍てつくような青い瞳が動いただけだが、一瞬にして周りの空気が凍る。
「はじめまして。私は最上級エルフのイリュード・クァルツォアルです」
イリュードと名乗るエルフはニコリとする。
それでも寒気は引かない。
「(イリュードさんは高潔の氷帝って呼ばれてて、大概の魔法なら使えるコワ……凄い人なんですよ。歯向かったら何されるかわからないから気を付けてね)」
あまりの寒さに動けないでいる俺に、モニアさんがボソッと耳打ちをしてきた。
「モニアさん、それは私に対する挑戦状、と捉えてもいいですか」
「き、聞こえてたんですか! す、すみません! そんなつもりは全くありません!!」
「ふふふ、冗談ですよ。 モニアさんは本当に真面目ですね」
モニアさんは言葉には出さなかったものの、ヒィッという反応を示していた。
「さあ、本題に入りましょう」
イリュードさんは再び俺の方を向いた。
「まず貴方がなぜ記憶を失っているか、解析しなければなりません」
「……はぁ」
俺はやっと話せるようになった。
この寒さに少し慣れたようだ。
「今から君に魔法を使いますので、動かずにいてください」
そう言うとイリュードさんは俺の胸元に何かを指で書いた。
聞き取れないほど静かな声で何かを唱えると光の象形が現れた。
イリュードさんの右手がゆっくりとその象形の中に入っていく。
暫くそのままの状態でいると突然、バチバチバチッと激しい光が弾けた。
光と共に黒い煙が上がり、イリュードさんの手は真っ黒に焼け焦げていた。
「イリュードさん! 大丈夫ですか?!」
モニアさんがイリュードさんの下へ駆け寄る。
「ええ、大したことはありません」
イリュードさんが黒焦げになった手を、もう片方の手で撫でるとすぐ元に戻った。
「それよりもこれは……少し厄介かも知れません」
「え? 」
「結論から言えば、この少年にかけられているのは忘却魔法ではありませんでした」
「え!? それじゃあ一体……」
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