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「ブラックボックス」
イリュードさんがその言葉を発すると、一段と周りの空気が冷たくなった。
モニアさんの手は少し震えている。
「ああ、すみません」
イリュードさんが小さく息を吐くと、寒さが少し収まった。
モニアさんは大きく息を吸い、恐る恐る尋ねる。
「あの、その、ブラックボックスっていうのは……」
「そうですね。まずその人に魔法がかけられているとしたらその人の魔空間には、蜘蛛の巣状の魔糸が張り巡らされますよね」
「わ、私はまだ魔空間には入れないので……」
イリュードさんは一瞬モニアさんを見たが、そのまま話を続けた。
「 通常であればそれを取り除けば魔術は解除出来るのですが、彼にそれは見当たらず。代わりに鍵がかけられた黒い箱のようなものがポツンと置いてありました。それに触れようとした時……あとはお2人が見た通りです」
イリュードさんは俺たちに向けて黒くなった方の手を振ってみせた。
「それと魔空間には通常、その人の記憶や感情などその人に纏わる情景が浮かんでいるものなのですが。彼の場合それも全くといっていいほどなく、とても無機質な空間でした」
「魔空間の中ってそんな風になっているんですね」
イリュードさんは少し呆れた感じにモニアさんを見る。
「記憶喪失の人でも、ある程度は何かしらの残骸が残っているものなんです。けれどこの少年にはその残骸すらありませんでした」
「つ、つまり……?」
「あくまで私の推測ですが。もしかしたら彼は元々“記憶“と言うものを持っていないのかも知れません」
「それは……どういうことなんでしょうか?」
「分かりません。私もこのような方に出逢うのは初めてですので」
そう言うとイリュードさんは俺の方に向かってきた。
「それと同時に彼のレベルやステータスも測らせて頂いたんですが」
「レベル測定も出来るんですか? 本当にギルド泣かせなお方ですね」
「貴女もエルフ属、しかもギルドに従事しているのならもう少し勉強した方がいいかと思いますが」
「す、すいません……」
ふふふと笑うイリュードさんを、モニアさんはジトッとした目で見ていた。
「さて君、これを持っていただけますか」
「……?」
俺はイリュードさんから片方の掌に収まる大きさの透明な玉を差し出され、言われるがまま受け取った。
俺がその玉を持つと玉の中にモヤモヤとした煙が現れ、その煙が象形を作り出した。
【Level.0】
と。
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