156人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんで? どうして? ひどい! ひどすぎるよ!」
歩乃佳はこぶしで涙をぬぐいながら歩いていた。
つい先ほどまで恋人、いや、恋人だったはずの折戸康史と交わしていた会話を思い出すと、怒りと悲しみで胸が張り裂けそうだ。
「ごめん、結婚したい人ができたんだ」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。康史の彼女は歩乃佳自身だと思っていたのに。7年も付き合ってきたのだ、結婚するのが当然だと思い込んでいた。
「私たち付き合ってたんじゃなかったの? どういうこと?」
「歩乃佳と付き合ってたのは確かだけど、俺たちもう結婚とかそういう関係じゃなかっただろ?」
「康史がそんな風に思ってたなんて知らなかった。私こそが康史の恋人なんだと思ってたのに」
あまりの言い分に、妙な声が出てしまった。
「確かに、歩乃佳は俺の恋人だけど。結婚するなら別の子と、って考えてたんだ」
「どういうこと? 何言ってんだか、わかんないっ!」
つまりは二股かけられていたということだろう。悪びれずに事実を認める康史は、まるで知らない人のようだ。33才の頃、友人の紹介で知り合ってから今まで7年近く付き合ってきた、歩乃佳がよく知る康史はどこへ行ってしまったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!