満月にひとり

1/1
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

満月にひとり

今日は満月、龍弥さんの部屋に行く日。今日は酒屋の店員さんオススメの日本酒を買った。 俺は、仕事終わりに一度家に帰りシャワーを浴びてお邪魔する事にしている。 あんなカッコいい龍弥さんに臭いなんて思われたくないから。 (龍弥さん…お酒、喜んでくれるかな?) ピンポーン 同じマンションだから直接部屋のインターホンを鳴らす。 ガチャ 「え?」 「はぁーい、どちら様ですかぁ?」 若い、ヒラヒラのエプロンを着けた可愛らしい女性。 「あ、あの…りゅ…いえ、片桐さんは?」 「ああ、彼ならシャワー浴びてますけど…あなたは?」 可愛い女性、シャワー… 俺はハッとする。 「いえ…あの…僕、片桐さんにはお世話になってて…あの…これ、お二人でどうぞ」 俺は、龍弥さんの為に悩みに悩んで買った日本酒を彼女に渡した。 「僕が来たことは言わないでください…失礼します」 後ろから、僕を呼び止める女性の声が聞こえた。けれど僕は走った。龍弥さんと出会った公園まで… 約束をしてたのは二回ぐらいかな、その後は連絡しなくても二人の約束だった。カレンダーとスマホで満月を確認してただけだった。 「はぁはぁ…ふぅ…」 龍弥さんに彼女がいたっていいじゃないか。いや、いて当然だ。あんなにカッコいいんだから。 夜空を見上げると、月が綺麗な夜だった。 目を閉じてみる。 『月がとっても綺麗な夜ですね』 あの日の龍弥さんの声が聞こえる。 写真だけでも…と思いポケットに手を突っ込む。 そっか…龍弥さんの所に行く時はスマホ持って行かないんだ。誰にも邪魔されたくなくて。僕がそう言うと笑って自分もスマホの電源を落としてくれた。 「これで、伊織と二人だけだ」 そのセリフにときめいたっけ…
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!