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第一章
昔々あるところに、邪心とされた神様がいました。
実際は悪意ある人間の姦計で貶められたその神様は、現代になってある少女により解放される。
彼女は『邪心の監視人』とされる一族の末裔で、孤独だった。神様は彼女を妻とし(実際は押しかけた。感覚が大昔)、紆余曲折の末、仲良くのんびり暮らしている。
ジョブが土地神・縁結びの神・家政夫・天才ゲーマー・ユーチューバー・複合企業相談役・人気ケーキ店の影のオーナー・忍者仙人で売れっ子少女漫画家(男)のスーパーアシスタント……とおかしなことになってるが、それはささいなこととしてスルーして。←できるか
彼には昔から本当のことを分かっており慕っている配下が大勢いる。中でも四天王と言われた四匹の妖は別格だった。
ただしそのうちの一人が問題児。現在保護観察処分だが、この前とうとうぱくっとひとのみされかけた。
さて、その後どうなったかというと―――。
☆
「九郎。どしたの。最近、前にもまして甘えんぼね」
あたし、加賀地東子は体に巻きついてるコブラくらいの白蛇に言った。
この蛇は何となくお分かりの通り神様です。
まぁ場所が自宅の自分の部屋だからいいけど、外でこれだと間違いなく保健所と警察に通報されるな。まるきりパニック映画のワンシーン。
「巻きついてるのはいつものことだし、いいけど」
これを何とも思わない自分の感覚はおかしいと知ってる。慣れって恐いね。
「……東子は俺の嫁だよ」
「うん、そうだけど?」
人間の法律上は九郎が同い年設定した関係でまだでも、人外の世界じゃとっくにそうでしょ。
首にスリスリしてくる九郎をなでる。
あれ、いつもならこれで機嫌治るのに。
「ほんとにどしたの」
「……上限が東子にちょっかい出すから」
「まーたそんなこと言ってるの? 上弦さんがあたしにつっかかってくるのは、崇拝してる九郎の嫁があたしで気に食わないだけじゃなく、巧お姉ちゃんにかまってほしいからでしょ? それとヤキモチ焼かせたいの。素直になればいいのにねー。ねえ、どうして上弦さんてあんなプライド高いの?」
「あいつはある山にあったニホンオオカミの妖の国の、ボスの子なんだよ。王子みたいなもんだな。ヤマタノオロチの襲撃で壊滅してなければ跡を継ぐはずだった」
「ああ、どうりで」
なるほどね。
ピンポーン。
インターホンが鳴る音が。
「あれ、誰か来たみたい」
「東子ー。巧ちゃんよー」
「あ、はいはーい」
噂をすれば影。
母の声に玄関へ行くと、巧お姉ちゃんがいた。
「どしたの? また仕事で必要な材料でも?」
巧お姉ちゃんの職業は警察官。ただし裏方で、人外専門担当部署の、装備や武器を作る技術者だ。
九郎のツテでこれまで入手困難だった素材が買えるとかで、時々依頼がある。
「ううん。違くて。ゲンが九郎様に謝罪したいっていうんで連れてきたの」
「謝罪?」
九郎があたしに巻きついたままうろんげに目を上げた。
ていうかそのまま普通に会話してるあたしらおかしい。
「あれ、でも上弦さんいないよね?」
辺りを見回すも、大型犬みたいなオオカミの姿はない。
「あー……ここまで来たものの、やっぱり恐くなっちゃったみたい。とりあえず社務所に置いてきた。オオカミの姿で『パトロール中』って書いた服着せてある」
「ああ、あのスタイルの上弦さん、『お手柄ワンちゃん』ってことで有名だもんね」
何度かニュースに取り上げられてる。
「参拝客が喜んで写真撮ろうとして、うなってそう」
「四天王の他三人がいたから、何かあっても止めてくれると思う」
「それなら大丈夫だね」
九郎の配下の中でも別格な三人を指す。いずれも妖。
巧お姉ちゃんは九郎に向き直った。
「というわけで、私が先にお話しに来ました」
「何がだ」
九郎も巧お姉ちゃんのせいじゃないのは分かってるんで怒りを抑えてききかえす。
「ゲンがこれまで東子ちゃんにつっかかって、嫉妬させてすみませんでした。ちゃんと謝罪したいみたいなので、威嚇せず聞いてあげてくれませんか?」
「……仕方がない」
九郎は人型になり、草履をひっかけた。
慌ててあたしも後を追う。
って、神様モードじゃないか。白髪に和装。素人でも神だと分かる正装だ。
上弦さんおびえちゃうんじゃ。
「あら、九郎様、東子様」
今日の社務所当番チームリーダーはツルの妖・雪華さん。中身は毒舌でも外見は大和なでしこなんで、彼女がいる時は男性参拝客がものすごく多い。
中にはその毒舌がいいってファンもいる。
「雪華、上弦は?」
「あの駄犬ならあっちにいますわ」
ブリザード吹き荒れそうな声で言う雪華さん。相変わらず上弦さんと仲悪いなぁ。
指さす鳥居のほう見ると、上弦さんが参拝客見張ってた。
「イケメンわんちゃんだねぇ!」
「かわいー。ニュースになってた子でしょ?」
「写真撮らせて~」
「骨ガムいる?」
「ウーーッ」
不快そうにうなる上弦さん。すぐに警備員のカッコしたウサギの妖・剛力さんが止めに入った。
「仕事中なんで、すいませんねー。食べ物もNGでーす。あ、列動きますよー。どうぞー」
ソツのないイケメンマッチョ警備員帽子付きに目がハートな女性たちは言われた通り進んでいった。
制服で効果倍増だね。正体はかわいいウサギさんなんだけど。
「骨ガムって好物じゃなかったっけ?」
「未開封でも知らない人からもらうのは警戒しますわ、東子様」
「食べ物を人間からもらう=服従って感覚なのよ。そういえば昔、出会ってすぐの頃も食べ物だしても食べなかったっけ。そもそもたいしたごはんなかったせいもあるけど」
あたしは巧お姉ちゃんを振り返った。
「今さらだけど、そこらへん詳しくきいてもいい?」
「ああ、いいわよ。私が前世も特殊な道具職人だったのは知ってるわね?元々は貧しい農村の生まれで、口減らしのために売られてねえ」
「しれっと重いよ!」
時代が時代とはいえ。
「そう? 当時はよくあることよ。買われた先も定番の遊郭でね。そこで妖がからんだ事件があって、やってきた祓い師に偶然才能を見出されて。代金がわりに私を引き取り、知り合いの職人のところに弟子入りさせたわけ」
「へー」
「親方は豪放磊落ないい人だった。おかげで一人前になれたわ。けどそうすると、気に食わないのが他の弟子たちでね……。後から来て、しかも女のくせにーって。さんざ嫌がらせされてて、親方が死んだらすぐに追い出されたわ。近くの山で独り暮らし始めたの。兄弟子たちじゃ作れないものもけっこうあったんで、細々とだけど注文はあったし、どうにか暮らしてたわ」
「他の村に行けばよかったんじゃ?」
巧お姉ちゃんは首を振った。
「そういう道具を作ってるのを不気味がる人も多くてね。まして女じゃ」
「はあ? 人を守るための道具を作ってる人を差別? 意味わかんない」
その道具のおかげで助かった人も大勢いるでしょうに。
「陰陽師や除霊士ですら迫害されることもあったのよ。ましてよね。普通と違う異能の力を持ってるっていうのは、時として恐怖を産む。自分たち『仲間』と違うものは異物として排除するのが人間よ」
「ああ……そこはよく分かる」
実体験だわ。
「で、そういう道具作ってるなら封印の解除方法も詳しいんじゃないかって考えたゲンが兄弟子たちの工房に押し入ったのよ」
「押し入ったって言った」
「襲撃でもいいわよ。兄弟子たちはもちろん知らなかった。そりゃそうよ、作り手であって使えるわけじゃないもの。たまたま騒ぎ聞きつけて私が駆けつけて……納品するため持ってたアイテムにイチかバチかで念じてみたら封印できちゃった」
マジすか。
「でも使えたのは後にも先にもこれっきりね。やっぱ私も使い手じゃないから。素人だもんで、力のある程度を封じられたにすぎなかったし」
「弱体化させたってことね」
「そう。またそこで兄弟子たちがあれこれいちゃもんつけてきたんで、嫌気がさしてゲンを連れて帰ったの。悪さした責任取って助手にしたんだけど、最初はほんっとなつかなくてねー」
「オオカミだもんね」
「時間かけて根気よく会話試みて、だいぶ大人しくなったわ。私としても番犬がいて心強かった。そんな暮らしが長く続くと思ったんだけど……ムリよね。何年かして、私は病気でぽっくり死んじゃった」
巧お姉ちゃんはあっけらかんと笑った。
「そんなあっさり」
「当時は医療技術も低くて、食事も満足にとれなかったもの。だからしょうがない。……でも一つ気になることがあるのよ」
「なに?」
「私が死んだら術も解けて、ゲンの力は戻ったはず。だけどついこの間まで体ごと封印されてたのよね?」
答えたのは九郎だった。
「確かに。当時、上弦は復活してる。だがそこへやって来たのがお前の死を知った兄弟子どもだ。材料や作ったものを横取りにな」
「えっ……」
「根こそぎ持っていこうとする連中に上弦がキレて暴れたんだ」
……それは怒るわ。
「あー……それで祓い師が呼ばれて封印されちゃったんですね」
「そういうことだ。兄弟子たちのいた村ごと壊滅させたからな」
「村ごとですか」
「村人たちはみな、お前を差別していただろう?」
「それはそうですけど……」
そこで上弦さんがこっちに気付いた。
ビシッて固まってる。
恐がってるなぁ。
「ゲン。大丈夫よ、おいで」
巧お姉ちゃんが手招きする。
「…………」
めっちゃギクシャクとロボットみたいな動きでこっち来た。小刻みに震えながら、巧お姉ちゃんの足元に座る。
巧お姉ちゃんはしゃがんで、勇気づけるように背をなでた。
「……く、九郎様。わざわざご足労いただき、まことに申し訳なく……」
「そこまでおびえられるとイラつくな」
「ちょっと、九郎」
さすがに黙っていられず口を出した。
「はいぃ! 申し訳ありません!」
直立不動で敬礼せんばかりだ。
「で。話があるんだろ」
「……は、はい、その……」
上弦さんは意を決して口を開いた。
「数々のご無礼、まことに申し訳ありませんでした。それがしにとって一番大切なものは九郎様であり、貴方様の幸せを邪魔するつもりなどございません。これからはより一層九郎様のために働く所存です」
九郎は無言。
恐いって。何か言いなさいよ。
上弦さんはおそるおそるあたしをうかがった。
「その……奥方様への非礼もお詫びしたく……」
奥方様? ってあたしのこと?
自分を指せば、巧お姉ちゃんがうなずいた。
「ど、どんな罰も受ける覚悟です。九郎様のご命令とあれば、命をもって償うことも」
「いやいやいや、そんな大げさな。いいってば。上弦さんの態度は巧お姉ちゃんにヤキモチ焼かせるためだって分かってるよ」
「は?」
上弦さんと巧お姉ちゃんはそろってぽかんとしてた。
「好きな子にかまってほしくていじわるしちゃう男子の心理でしょ? 分かってる分かってる。他の女性にケンカ売ったら必ず止めに入ってくれるってことよね。っつっても雪華さんとかにふっかけると本気の乱闘になっちゃうから、なる心配のないあたしにしたんだよね」
九郎を見上げ、
「九郎も理解はしてるけど、あたしが人から悪意向けられ慣れすぎてるの見てると辛いんだよね? ごめんごめん。でもさ、それは九郎のせいじゃないんだから気にしないの」
あんたを悪に仕立て上げたのは大昔フラれた男の逆恨みとばっちりじゃないの。
「……けど、東子」
「けどじゃない。ドライで感情薄いのは、あたしの元々の性質なんだって」
九郎の顔に手を伸ばし、ほっぺたぶにっと軽くつかんだ。
「いつまでも気にしてウジウジしてたらあの男の思うツボよ? ぜんっぜんカケラも気にしないで幸せになってやるのが最高の復讐だと思うわよ」
にっこり笑う。
「…………。東子ぉ」
九郎は泣きそうな子供みたいな顔して抱きついてきた。
よしよし。
巧お姉ちゃんが感心してうなった。
「う~ん。さすがだわ。お見事」
「巧お姉ちゃんのほうが上手いよ。けどさ、上弦さんのジェラシー作戦はほんとやめさせたほうがいい。九郎がここまで気にしちゃってる。それに配下の中で上弦さん孤立したままじゃあね」
「あのね東子ちゃん、そのジェラシー作戦ていうの違うわよ?」
「いやいや、あたしが言うのもなんだけど、上弦さんもたいがいニブすぎ。あのさぁ、そんなことして気持ち確かめようとしなくたって、巧お姉ちゃんは上弦さんのこと好きだよ。大丈夫、安心しなって」
「……は?」
上弦さんは鳩が豆鉄砲を食ったみたいになった。オオカミなのにハトとはこれいかに。
慌てたのは巧お姉ちゃんだ。
「ちょ、ちょっと東子ちゃん! ……あ、違うわよ、ゲンのことは嫌いじゃないわよ。大事な家族だもの」
「……あ、ああ、なんだ、そういうことか」
違うと思うけどなー。
巧お姉ちゃん、それでいいの? なんでかいつもそこごまかしてるよね。
九郎は頭なで続けてるんで落ち着いてきたっぽい。
「まぁともかく、上弦さんにとって九郎の配下っていうのは大事な居場所でしょ? なのに周囲と仲悪いのはまずいってのもあって、やめたほうがいいんじゃない?」
「そ、そうよそこね。私が止めたら止めたで、飼いならされてるとかペットとか言われちゃって、それでまたゲンが怒るって悪循環で……」
言いながら微妙な目線が九郎に向いてる。
……ああうん。
九郎は首をかしげて、
「そうか? 俺ならうれしいけどな」
「九郎様ああああああ! 神がペットでいいなど情けないことをおっしゃらないでくださいー!」
上弦さんに同感。そこで喜ぶ神ってどうなの。
「実際、嫌味として言われてるから怒るのは分かるんだけど。向こうもさんざんきつい態度取られたの根に持ってるわけで、私も強く言えなくて」
「うーん。九郎、配下のみんなにそういうこと言わないよう頼んでもらえる? ムカつくのは分かるけど、それ続ける限り悪循環だって説明すれば納得してもらえるんじゃないかな」
「……東子の頼みなら」
「ありがと。でもね上弦さん、一番しなきゃならないのは上弦さん自身が態度改めることよ? いつまでも奥さんにフォローさせてちゃダメ。ダンナならしっかりしなきゃ」
「…………」
巧お姉ちゃんと上弦さん二人とも目が点になった。
しばし沈黙。
ややあって、
「……東子ちゃん?」
「……ダンナとはどういうことだ。主人という意味ならそれがしの主は九郎様だ」
「知ってる。そういう意味じゃないよ。巧お姉ちゃんと上弦さんて前世から夫婦なんでしょ?」
声にならない悲鳴があがった。
驚いたのはこっちだ。
「え、なんでそこで驚くの」
「ととと東子ちゃん?! ちがっ、なんでそんな話になるの!」
ものすごい焦ってるね。
「へ? だって、神とか妖が押しかけてきて同居って、結婚成立って意味でしょ」
あたしが実例ですが。
ね?と九郎に問いかければ、九郎はうなずいた。
巧お姉ちゃんは頭抱えてる。
「そうだった……」
「ウチの先祖にもそういうケースいくつかあったって聞いてるよ」
「……それは時代が時代で」
「前世ってかなり昔、神代に近いんでしょ? まさしくじゃん」
ねえ。
「いやぁ、死に分かれても生まれ変わってまた会えるってロマンチックだね」
「俺たちもそうしようか、と言いたいとこだけどそもそもならないな。東子はもう人間じゃなくて仙女だから」
「しれっとどえらい情報ぶっこんだね?!」
ガバッと振り仰ぐ。
「聞いてない! どういうこと?!」
「元々東子は色んな種族・能力者の血が混じってるせいで、人の枠から外れやすかったんだよ。長命の先祖ばっかりだろ?」
「そこはなんとなく自分も長命かなぁと予想はしてたけど、仙女って何」
「レディY先生に修業つけてもらってただろ」
忍者で仙人の良信おじいちゃんは乙メン。趣味が高じて少女漫画デビューし、現在アニメ化までしてる超売れっ子だ。レディYっていうのはそのペンネーム。
「昔、護身術はね」
「護身術ってレベルじゃないぞあれ。あとちょっとで仙女になれるくらいのとこまでいってたんだ」
「え、そうだったの」
「最後の試験させなかったのは、まだ東子が小さかったから。大きくなって自分の判断で仙女になるなら受けさせようってつもりだったらしい」
「うん、で、あたし決めた覚えないよ」
「夫である俺が決めた」
「こらぁ!」
思わず胸倉ひっつかむ。
「人の人生勝手に何してくれんの!」
「だって東子が死んで置いてかれるの嫌だったんだよー。独りはやだ」
大蛇の姿に変化して巻きついてきた。
「そりゃ神通力で転生先突き止めて追いかけていけるけど、東子は覚えてないじゃん。やだ。東子とずっと一緒にいたい」
めそめそと泣きついてくる。
「…………」
九郎は家族に迫害され、人間たちに悪者にされて封印された。それで姉の気が済むならと、あえて汚名を背負って。
孤独なまま暗闇で長い時を過ごし……。
やっと手に入れた温かな居場所を手放したくない気持ちは分かる。あたしもそうだもん。
「……しょうがないわね」
ため息ついて蛇の頭をなでた。
「確かにあたしもそれは嫌だから、今回だけは許してあげる」
「東子」
「でも次はちゃんと先に言いなさいよ」
きちんと釘さしておいた。
九郎はうれしそうにしっぽくねらせて、頬にスリスリ。
「うん。東子とずっと一緒だ~」
「聞いてる? 次は許さないわよ」
そこでようやく思考停止してた上弦さんが回復した。
「九郎様! それがしとこいつは断じて夫婦などではありません!」
「ん? 何言ってんだお前。社会的にはそうだろ。だからああもあっさり引き渡したんだろうが。白河巧でなければ預けん」
「違います! こいつは」
「違うならなんなんだ、友達か?」
「…………。それも違います」
「家族だろう?」
「…………」
上弦さんは言葉に詰まって黙った。
あれ? これ、恋愛感情自覚ナシどころか、それ以前の問題?
うーん。これは縁結びの神社の娘として、後押ししなきゃなあ。
よし。
「そういえば巧お姉ちゃん、参道に新しいスイーツ店できるんだよ。見てこれ!」
写真を見せる。
「寒天の中に季節の練り切りが入ってるんだ。年配の人にも好まれそうな和菓子、しかもヘルシー。食物アレルギーの人でも食べられるしね」
「えっ、なにこれカワイイー! この花本物?」
「うん、そっちは食べられる花。エディブルフラワーってやつ。高齢化した地元農家さんでも、これなら栽培が容易なんでどうだろうって九郎が。デザインも九郎が考えたんだよ」
「ああ、やっぱりというか。……土地神の仕事に新作スイーツ考えるのって入るの?」
「入る。イメージアップと集客は大事だ。九尾の狐なんか芸能プロダクション作って人気アイドルグループばんばん輩出してるぞ?」
「……平和っていいですね!」
巧お姉ちゃん、ツッコミあきらめたね。
「情報ありがとっ、東子ちゃん。さっそく買いに行ってくるね! ゲン、行こ!」
「……し、失礼いたします……」
「うん、じゃあね~」
上弦さんはオオカミ姿のまま、抱きかかえられて帰ってった。
しかし、筋肉質で重いオオカミを軽々抱えられる巧お姉ちゃんって、怪力気味だよなぁ……。
ずっと黙ってた雪華さんが苦虫かみつぶしまくってゴリゴリにすりおろした顔して、
「ようやっと? 今さらながら謝罪とか。遅すぎでしょう、あの駄犬」
「まぁまぁ。謝っただけ進歩だって。で、雪華さん。悪いけど根回しお願いできる?」
「東子様のご命令でしたら。配下同志の争いは無益ですしね。そりゃあもう言ってやりたいことは山のようにあるんですが」
「あはは」
もう十分言ってんじゃん。
「さ、九郎。戻ろっか」
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