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基規と秋律は確かに小学生の頃仲がよかった。 秋律とは家も近く塾も同じということで一緒に過ごす時間が多かった。
「秋律、おはよ!」
「おはよう、基規」
同じ時間を共にしていれば自然と二人は隣になり、自他共に認める親友の関係にもなった。
「秋律! ここの算数の問題分かるか?」
「あぁ、これはね」
二人が話す内容はほとんどが勉強のこと。 会ってすぐに話し始めるのも勉強のことであるし、休み時間や登下校中も勉強のことばかりが話題の中心だった。
ただそれは二人が望んでいたことで不満などはなかったのだ。
「基規くんと秋律くん凄いわねぇ。 今回も満点だなんて」
塾の先生や学校の先生にも褒められ注目される程二人の成績はクラスで群を抜いてよかった。 ただそれをよく思わない者もいた。
「ねー。 またあの二人、勉強の話をしてるよ」
「勉強以外のことが分からないんじゃない?」
がり勉で常に勉強の話しかしない二人だったため近寄り難いオーラを放っていたのかもしれない。 先生に可愛がられることもあり、クラスでは自然と孤立していた。
「基規、そこの答え違うよ」
「え、マジで!? あー、本当だ!」
だが二人は毎日の勉強で充実している日々を送っていたため、周りから変な目で見られていることに気が付かなかった。 そしてきっかけはある日のことだった。
「好きです!! よかったら付き合ってください!!」
基規は六年生の時に初めて異性に恋をしたのだ。 勉強ばかりして絡んでいなくても生物としての欲求は否定できない。 勇気を出し告白したが見事に玉砕した。
「ごめんね。 勉強の話しかしない人とは仲よくなれそうにないんだ」
「え? どうして・・・」
「きっと一緒にいてもつまらないと思うから」
告白をした時にそう告げられた。 そこでようやく自分ががり勉で周囲から浮いていることに気付いた。
「・・・このままだと駄目なんだ」
それをきっかけに基規は変わろうと決めた。 周りを見て誰がクラスメイトに人気であるのかを観察し、研究し始めたのだ。
「基規ー。 塾の宿題のことなんだけど」
「秋律! それよりもさ、久々にサッカーでもしないか?」
「サッカー? どうして?」
「勉強なんて少し休んでも大丈夫だよ! ほら、早く!」
「・・・? まぁ、たまにならいいけど」
最初は勉強から離れるのに秋律も一緒にと考えた。 余計なお世話だったのかもしれないが、基規が浮いているということは秋津も浮いているということになる。
勉強ばかりではなく学校生活としての充実も共に求めようと思っていた。 だが秋律には勉強漬けの毎日から抜け出す必要がないため次第に二人はすれ違っていった。
「秋律! 一緒にグラウンドへ行こうぜ!」
「・・・いいよ。 僕は勉強してる」
「でも身体を動かした方が」
「基規一人で行ってきたら?」
「俺は秋律と一緒に遊びたいんだけど」
「僕は勉強がしたいんだ」
「・・・」
勉強が大事なのは当然基規も分かっている。 だから無理に秋律を外へ連れ出すことはできなかった。 そうしてすれ違うまま中高一貫の学校へ入った。
「入学おめでとう。 中学生になっても勉強頑張るのよ」
母の言葉を聞きながら校舎を見る。 中学受験し頭のいい子供しか入れない学校に入った。 勉強が大切だということは分かっているし、ただ基規は両立させたかっただけなのだ。
「秋律くんも一緒に入学できてよかったわねぇ」
秋律の名前を聞き入学式で秋律の姿を探した。 秋律はビシッと制服を着こなし優等生のように見えた。
「・・・俺とは全然違うんだな」
中学生になった日を境に基規は完全に中学生デビューしようとした。 髪色を明るくし、制服も大きめのサイズを選んでゆとりを持って着る。 いわゆる学校に文句を言われないレベルでのなんちゃって不良。
「お前イカしてんじゃん! どこの小学校から来たの?」
見た目が荒れているチャラい人と絡むようになった。 それでも当然秋律のことを忘れたわけではなかった。
「秋律! 秋律もこっちへ来いよ!」
「・・・僕はいいよ」
秋律も一緒の輪の中へ入るよう促すが、秋律は自ら離れていく道を選んだ。 ただもし上手くいっていたとしてもその後本当にいいことになっていたのかは分からない。
寧ろ不協和音のようになっていた可能性が高かった。
「どうしてアイツなんかに構うんだよ? 地味な奴は放っておこうぜ」
仲間にそう言われ余計に絡みにくくなった。 それ以来基規と秋律の関係に溝が入ってしまったのだ。
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