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そのやり取りはクラス中の注目を集め、ざわざわと話が立った。 もっとも基規は教室内を冷静に観察するような余裕はない。
「ちょっと見せてみろ!!」
教師から慌てて答案用紙を奪い取り、目を凝らして氏名の欄を見る。 が、確かに名前は書かれておらず黒い跡すら付いていない。
―――本当に名前が全て書かれていない・・・!?
―――いや、俺様は確かに名前を書いた記憶がある!!
氏名が空白なだけでどうやら肝心の解答は全て正解だった。 しかし、それでも冷や汗が流れるのを止められない。 基規が決めたルールで名前を書き忘れても大丈夫なんてことは決めていないのだ。
ただ試験の結果、つまり数字の大小で階級が変わる。 教師から返却された答案用紙に“0“と書かれていれば、基規の試験の結果は0点なのだ。
「おかしいだろ! これでゼロ点だなんて!!」
「名前が書いていないんだもの。 仕方ないじゃない」
「俺様はちゃんと名前を書いたからな!?」
「でも、実際に書いていないでしょ? 名前を書くのを忘れた人は皆そう言うの」
「でもこれはマジで!!」
「誰かに悪戯で消された。 とかも考えたけど、それなら跡くらい残っているだろうと思って角度を変えたりしてよく見たんだから」
「マジか、よ・・・」
「でも安心して。 今回のテストの結果としては0点だけど、成績表や内申点では大目に見てあげるから」
そう言って軽く肩を叩かれ席へと戻された。 周囲の視線が突き刺さる。
―――意味が分かんねぇ・・・。
―――名前は絶対に書いたはずだ。
―――見直しの時にも何度も確認した!
―――なのに名前の書き忘れで点数を落とすなんて、そんな馬鹿をすることは・・・。
だが記憶というのは曖昧なもので、名前を書いた記憶があると言っても実際に答案用紙の空欄を眺めていると、本当に書き忘れてしまったのではないかと思えてくる。
昨日今日ならともかく、試験があったのは一週間前のことなのだ。
―――こんなのってありかよ・・・。
席へ戻って改めて答案用紙を眺めてみるが、やはり名前が一切書かれていなかった。
―――・・・アイツらに絡まれたくねぇな。
アイツらとは定茂たちのことだ。 ゼロ点だということを知って馬鹿にしてくるに違いなかった。
「基規ー。 お前テストの順位最下位だったって?」
休み時間になるとかつて成績上位の4人がやって来た。 予想通りに絡まれ嫌気が差す。
「当たり前だが名前の書き忘れだろうが順位は順位。 お前は最下位で奴隷落ちだ!」
「ちッ」
そして今まで2位だった定茂は自分の答案用紙を見せつけた。
「486点の俺が次の王に決定だな!!」
それを聞いてぞわりとした。
「ッ、はぁ!? おい、待ってくれよ!!」
「テストの結果が全てだ。 そう言ったのはお前だろ?」
「俺様は認めねぇぞ! 俺様は嵌められたんだ。 俺様は絶対に名前を書いたからな!!」
「じゃあその証拠を示してみろよ? その答案用紙こそが完全なる物的証拠なんじゃないのかぁ?」
ニヤニヤと笑う定茂に腹が立ち歯を食い縛る。
「くッ・・・。 まさかお前が俺様を」
「滅多なことは言うもんじゃねぇよ、奴隷」
基規に軽く蹴りを入れると、嘲笑うようにして定茂以外の好成績だった生徒たちはこの場から離れていこうとした。
「おい待てよ! これは何かの間違いだ、俺様が王だ!!」
「最下位の奴隷が俺に話しかけてくんなよ」
「ッ・・・」
「お前が俺たち以上の成績を叩き出したらまたつるんでやってもいいぜ?」
誰かによって嵌められ王座から引きずり降ろされたとしか思えなかった。
―――完全に立場が逆転した・・・ッ!
成績の問題で王の座から転落する可能性はあると思っていた。 しかし全てが0点となり、奴隷になるだなんて想定外だ。 永続的なものでないということが救い。
しかし、次の試験までまだかなりの期間が空く。
「あとさぁ、基規」
「あぁ・・・?」
「お前やっぱり、前回の奴隷のことを庇っていただろ?」
「違ッ・・・」
「違くねぇんだよ。 それはルール違反じゃないか? 奴隷に一番重い命令をしないっていうのは。 ルール違反者は奴隷へ落ちて正解だ」
「・・・」
そして定茂は基規に顔を近付けて言った。
「それに秋律とお前が昔、仲がよかったことは既に調べ済みなんだよ」
「ッ・・・!」
「ほら言ってみろよ? 今なら言い訳を聞いてやるぜ?」
「そんなことを言うわけッ」
「お前たちは昔、ドが付く程のがり勉オタクだったんだろ?」
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