15人が本棚に入れています
本棚に追加
ここから自分が決めたルールに貶められるという最悪な時間が始まってしまった。 もちろん次の試験でいい成績を取れば抜け出すことができ、基規なら容易である。 だが今試験を終えたばかりなのだ。
「早く歩けよ、奴隷の荷物持ちー」
今までのこともあり特に王である定茂に虐げられることになる。 いつかしっぺ返しが来る可能性は考慮していたが、まさかそれが定茂からだとは思ってもみなかった。
革命のように上がってくる何者かが現れるのではないかと想像していた。
「いってぇな! 勝手に蹴ってくんなよ!!」
理科室への移動中、前までずっと絡んでいた上位の四人の荷物を基規は一人で運んでいた。 自身のものも含めれば5人分となりそれなりに重い。
「遅いからいけねぇんだよ。 俺たちに追い付かれるな」
「じゃあ自分で荷物を持ったらどうだ? そっちの方が早いだろうがッ!!」
そう言いながら後ろへ蹴りを入れようとした。 荷物を持っているせいかバランスを崩し弱い蹴りになってしまい軽々と避けられた。
「お前、本当に懲りねぇな。 自分の立場を分かってんのか?」
「俺様は自分が奴隷だなんて認めていねぇ」
「まだそれを言うのかよ。 自分で決めたルールなんだからまずお前が守れよ!!」
「ゼロ点になったのはお前たちが不正な細工をしただけだからな!!」
だがそれでも基規は王の言うことは一応聞いていた。 文句を言ったりはするが、ここで逃げ出すと後で何をされるのか分からないし、ここまで積み上げたものが壊れると思ったのだ。
―――・・・カースト制度は俺様が始めたことだ。
―――今更撤回するとか、そんなみっともない真似はできねぇ。
自ら奴隷の身分に落ちてみて、少しやり過ぎだったかと反省もした。 ただこんな酷い扱いを受け上を目指そうとしないのはやはり意味が分からない。
「はい、ご苦労さん。 そしてこれ」
持ってきた荷物を理科室の机に置くと4冊のノートを渡された。
「次の命令。 授業中、俺たちのノートに授業内容を全部とれ。 あ、分かりやすいようにまとめておいてくれよ?」
「はぁ!?」
「お前の席は後ろだし、勉強は得意だろ? いやぁ、助かったわー。 今までの奴隷じゃこういった命令をしても意味がなかったからな」
「そういう問題じゃ!」
「ほら、お前が遅ぇからもう授業が始まっちまったよ」
号令と共に基規はノート4冊を持って席に座った。 全て破り捨ててやろうかとも思ったが、すんでのところで堪えた。
―――どうして俺様がこんなことをしなくちゃなんねぇんだよ!
授業中必死にノートを取った。 そのせいで内容がほとんど頭に入ってこない。 更に授業の後半は実験で、面倒なことになるのは目に見えていた。
「基規ー。 俺たち班の分の実験器具全て持ってこいよ」
「基規ー! 俺たちの班も!」
そう命令された。
「ちッ」
今は授業中のため大声で文句は言えない。 言って教師にカースト制度のことがバレてしまえば自分がやり始めたという人間が出てくるに決まっている。
―――次俺様が王を取ったらタダでは済ませねぇからな。
だから基規は黙って言うことを聞いた。 だがそれがいけなかったのかもしれない。 実験器具は1セットならともかく、何セットも同時に運ぶとなると不安定で誤って落としてしまったのだ。
「おい! 大丈夫か!?」
教師が慌てて駆け寄ってくる。 定茂たちは見て笑っているだけだった。
「すみません・・・」
「どうして一度に運ぼうとするんだ! そもそもビーカーは一班にこんなにもいらないだろ!?」
基規は教師に怒られ言い訳をしたかったが、グッと堪えた。 全て次の試験までの辛抱。 されたことは全て記憶に刻み倍に返してやろうと思っていた。 そうしてようやく理科の授業を終えた。
「お疲れ、基規ー。 いいものを見させてもらったぜ」
「・・・絶対に許さねぇから」
「言ってろ」
睨み付けるも意味がなかった。 ノートを返すと定茂は自分のノートを確認し、投げ渡してきた。
「おい、字が汚ぇぞ。 書き直しだ」
「はぁ!?」
「俺のも汚いわー。 これじゃあ勉強ができないんだけど」
「お前らいい加減にしろ! 同時に綺麗にノートをとれるわけがねぇだろ!?」
「うるさい黙れ。 反論は認めない」
そう言って定茂は時計を見た。
「その前に昼飯だなー。 お前、売店で俺たちの分を買ってこいよ。 もちろんお前の奢りでな?」
「ッ・・・」
『お前の奢り』というフレーズは定茂の口癖だ。 それが自分にも向いたと思うと腹が立った。
「一番高いヤツを頼む。 仕方ねぇから理科のお前の荷物は教室まで持っていってやるよ」
そう言って基規から荷物を奪い取る。
「感謝するんだな。 早く帰ってくるんだぞ?」
「・・・マジで憶えておけよ」
教室を出ようとすると突然冴木が現れた。
「基規くん、僕も手伝・・・」
「あぁ? いいからどけよ。 俺様はムシャクシャしてんだ、邪魔だ」
「ご、ごめん・・・」
「ちッ」
基規は扉を蹴りそのまま教室を出ていった。 それにつられ冴木もこの場を後にする。 その姿を見ながら定茂はふと思っていた。
「・・・それにしても、一体誰がアイツの答案に細工なんてしたんだろうな?」
「ははッ。 王として調子こいていたんだから、恨みを買っていてもおかしくはないって」
「だなッ! つーか、アイツって案外ドジだからガチで名前を書き忘れたんじゃね?」
「くっくっく。 まぁ、そういうことにしておいた方が平和かもしれねぇな」
「だけど名前を書き忘れていなかったら満点だったって・・・。 それは素直に凄いな」
「確かに。 まぁでも、名無しの権兵衛さんはゼロ点ですけどッ!」
「はっはっはっはっはッ!!」
最初のコメントを投稿しよう!