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俺様ルールカースト
競立高等学校第二学年。 そこのAクラスではあるルールが生徒たちの立場を縛っていた。 とはいえ、そのルールは学校が決めたものでも教師が決めたものでもない。
生徒が自主的に実力をもとに階級を作り出すという理念――――いや、面白半分に作り出されたものだ。 そしてそのルールを決めたのが基規(モトキ)であり主人公となる。
基規の性格は横暴で柄は悪いが、Aクラスという特進クラスであり頭がいい。 決めたルールは本人にとって非常に都合のいいものだ。
―――今日は中間テストの返却日か。
―――ついに今日という日が来たわけだな。
ただあくまで実力で階級を決めるというのが大本のため、公平性は保たれている。 基規の成績が落ちれば途端にクラスの下層に位置付けられてしまう。
今までずっとトップに君臨し続けてはいるが、今日のテスト返却でそれも終わる可能性は十分あるのだ。 そしてお楽しみは他にもあった。
―――つまり今日は成績の順位がリセットされる日。
―――まぁトップの座は誰にも譲らないけどな?
―――この俺様がナンバーワンなのには変わりないんだ。
ちなみにこのルールを知っているのは生徒たちだけで、教師も親もそのようなことが行われているということを知らない。
もちろん口外しないことが約束であり、担任の木本先生はクラス全体の成績が上昇していることを暢気に喜んでいたりする。
―――1位の者が王で最下位の奴が奴隷。
―――俺様が考えた制度にしては素晴らしいルールじゃん?
1位には権力があり下位になるにつれ権力はなくなっていく。 そして誰にとっても王の命令は絶対だった。
―――誰か俺様に並ぶような強者は現れないのか?
―――2位になる気はないけど、張り合う奴がいないとこっちもやる気が出ないんだよ。
毎回テスト返却日に順位はリセットされるが、基規は1位から下りたことは一度もない。 これは基規自身維持するために必死に勉強しているからでもある。
「おう、基規」
昇降口へ行くと成績2位の定茂(サダシゲ)に会った。
「ついに成績発表の日が来たな。 次は誰が奴隷になるんだか」
「誰だろうな」
「もう俺たちは成績上位が確定しているから結果が楽しみだぜ」
「どうせ俺様が次期も王だろうし、誰が奴隷になっても変わらないけど」
上履きに履き替えていると定茂が小声になって言った。
「カースト制度があるということをまだ教師は知らないんだろ?」
「あぁ。 バレたら流石に問題になるか、辞めさせられるだろうな」
「そのスリルがある感じもたまらねぇな! それにもしかしたら成績が上がっているから続けろとか言われたりしてな」
学年が上がってもクラス替えがなくつまらない日々を送っていた基規が、ある日ふとカースト制度をやろうと思い立った。
もちろん基規の成績がいいことはクラスの誰もが知っているが反対されることはなかった。 いや、反対できる者がいなかった。
元々基規はこのルールができる前からクラスの中での立場は高かったのだから。
―――俺様が頭がいいということは自分が一番分かっている。
―――だからこの制度が誕生したんだ。
当然自分にとって有利であることを確信し決めたことだ。 ただ基規からしてみれば頑張ればいいことを頑張らない理由が分からないのだ。 ある意味ではクラス全体を操るゲームのようだとも思っていた。 教師には秘密にしておりもちろん密告しようとした者がいたら容赦はしない。
―――といっても最下位争いをしている奴らにしか命令はしないから、少し飽きてはいるけど。
―――毎回同じメンバーだと流石にな。
基規は基本的に成績が上位の人としか絡まなかった。 自分よりも下位の人間とは絡む必要がないと思ったのだ。
「お、いいところにいんじゃん」
歩いていると丁度同じクラスの男子に会った。 冴木(サエキ)だ。 彼はクラスでは影が薄く、いつもひっそりと過ごしていた。 荷物を冴木に向かって放り投げる。
「俺様の荷物を教室まで持っていけよ」
「はい・・・。 あ、あの・・・」
「何だ?」
「・・・いえ」
そう言って冴木は何故か会釈をした。 その意味を基規だけが汲み取ると、定茂も同様に冴木に荷物を預けようとした。
「あ、俺のも俺のも」
「他に命令できる奴がいるんだから他の奴にしろよ。 そのせいで俺様の鞄が雑に扱われたら定茂の荷物を全部捨てるからな?」
「・・・分かったよ」
王の命令は絶対で自分よりも成績が上の人には絶対に逆らってはいけないというルールがあるのだ。 もし逆らっても、次のテストでいい成績を取れば立場を逆転することもできると言えばいい。
そこがミソだった。 本人に自分の立場が悪いのは、自分の実力のせいなのだと思わせることで奇妙に統治できているのだ。
「今日も清々しい朝だねー。 みんな、おはようさん」
教室へ着くと基規の登場に教室は静まり返った。
「おいおい、何だよこの静けさ? 俺様はまだ何もしてなくない?」
教室内を見渡していると一人の男子に目が付いた。
「今俺様と目をそらしたお前。 今から俺様の椅子になれ」
「椅子、ですか・・・?」
「俺様は疲れてんだ。 さっさとしろ」
四つん這いになった男子の背中にドサリと座る。 その光景をクラスメイトは見ていた。
「何だよお前ら。 文句でもあんのか?」
そう言うとクラスメイトは見て見ぬフリをするように各々談笑を再開した。
―――このカースト制度は成績で決まる。
―――誰だって俺様に並ぶ可能性もあるということだ。
―――上の人に命令されるのが怖いなら自分が勉強を頑張ればいい。
―――・・・それとも何だ、俺を抜かしたら痛い目に遭うとでも思っているのか?
「お、来た来た。 奴隷のお出ましだぜー」
定茂の声にクラスメイトの視線が廊下へ集まる。 奴隷と呼ばれる彼は教室にトボトボと歩いて登場してきた。
「・・・」
常に俯いており表情すらも窺えない冴えない男子生徒。 名前は秋律(アキリツ) 毎回のように最下位にいる生徒だった。
―――成績さえ上げればいくらでも待遇を改善できるというのに。
―――どうして頑張ろうとしないんだ?
―――・・・ここは特進クラスだから、お前も頭がいいはずだろ。
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