24人が本棚に入れています
本棚に追加
自分よりひとまわり体の大きいアシストたちに周りを固められ、悠々とフィニッシュラインを目指すその姿は、なるほど王者の貫禄だ。確かまだ二十代半ばだったはずだが、自分が彼と同じ年頃だった時、あそこまで堂々としていたかと問われると、レムはとぼけた顔をするしかない。
肝心のスプリント勝負前に頭突きでも食らわされるとかなわないので、レムはブルージャージ軍団の隊列とは離れ、集団の左側に位置を定めた。スプリント勝負に絡むには、悪くないポジションだ。そうとなればフィニッシュラインまで絶対にこの場所は譲らない。
「イーサン!」
前を向いたまま、背後についてきているであろうエースの名前を叫ぶ。ビュンビュンと風がうるさく過ぎる耳元にも、「ああ!いる!」とはっきりとした返事が返ってきた。
大丈夫、彼はついてきている―――そう思うと、ペダルを踏む脚にグッと力がこもる。全身をアドレナリンが駆け巡り、細胞のひとつひとつが興奮にわきたつ。獲物を捕らえる瞬間の肉食動物は、きっとこんな感じだろう。
俺のエースを、誰よりも速くフィニッシュラインに届けてみせる。
フラムルージュのゲートを越えたところで、集団のスピードはピークに達する。
最初のコメントを投稿しよう!