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脚を使い果たしたアシストたちがひとり、またひとりと目の前から脱落していく中、レムは全力でペダルを踏み続けた。ここまで180㎞近く走ってきた脚の筋肉がギシギシと疲労を訴え、心臓は今にも爆発しそうだが、知ったこっちゃない。フルスピードでめいっぱい牽引したエースを、フィニッシュラインの目前で発射する。その役割を果たすことができないのであれば、自分にアシストを名乗る資格はない。
ふいに、前を塞いでいたライバルチームのアシストがよろよろと横にそれていき、目の前のスペースがぽかりと空いた。頭が理解するより先に、本能が「ここだ」と告げる。背後につくイーサンも察したのだろう。「レム!」と名前を叫ばれて、血液がぶわりと沸騰した。
奥歯をグッと噛みしめ、最後に残った力をすべてペダルを踏む脚にこめる。血液を送り出すために激しく脈打つ心臓は、もうあと数秒も持たないと悲鳴を上げる。骨も筋肉もバラバラに砕け散ってしまいそうだ。このまま死んでしまうかもしれない。それでもいい。額から流れる汗が目に入り、視界が白くぼやけた。世界は無音になり、自分の呼吸と、イーサンの荒い呼吸の音だけが耳に届く。
「今だ」と息だけで呟いた瞬間、イーサンが後方から飛び出していく。
まっすぐ、ためらうことなく、光の速さで。
フィニッシュ・ラインに吸いこまれていく眩しい背中を見送って、レムは目を閉じた。
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