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「レム!」  名前を呼ぶ声で、世界に音が戻ってきた。  ハッと目を開くレムの視界に最初に飛びこんできたのは、さっきフィニッシュラインに送り届けたはずのエースの顔だった。  ほとんど鼻と鼻がふれあうほどの距離に、レムは思わず「うわ」と声を上げる。ぐらりと崩れるバランスに、まだ自分が自転車の上にいることに気づいて、慌てて脚を地面についた。 「おい、大丈夫か?」と肩を支えようとするイーサンの手をポンポンと叩いて「大丈夫」と返す。口を開いた途端、ガサガサにひび割れた喉に新鮮な空気が入ってきて、思わず咳きこんだ。   すかさず差し出されるドリンクボトルの中身を半分飲み干して、ようやくひとごこちつく。ボトルをイーサンに返そうとすると、「いいから全部飲め」と押し戻された。 「名前を呼んでも返事しないから、不安になったぜ。ここはどこで俺は誰かわかるか?フルネームで俺の名前を言ってみろ」 「……イーサン・ウォーカー。平和と美女をこよなく愛するオーストラリア一の色男だろ」 「よかった、頭は正常だな。しかし涎と鼻水でせっかくの美形が台無しだぞ、ミスター・ヤンセン」 「ゲロを吐かなかっただけでも褒めてほしいぜ。勝ったか?」 「駄目だった。ウェールズの大砲野郎にかわされた。あいつやっぱ化け物だわ。スピードが違いすぎる」 「……そうか」 「でも今日の位置獲りは完璧だった。ありがとな、レム」
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