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 その日の夜は、滞在先のホテルで、レースの無事終了を祝してささやかな慰労会が行われた。  レース期間中は指をくわえて見ているしかなかったオージーワインも、今夜ばかりは解禁だ。  ここにチームシェフのマックスが腕を振るうローストビーフでもあれば最高なのだが、あいにく彼は遠く離れた日本に滞在中だという。本格的なシーズンインの前に、ローカロリーで高栄養価のジャパニーズフードを勉強しにいったらしい。  太ることを回避するために、レース期間中の選手には粉チーズを振っただけの大盛りパスタを与えておけばいいというのは、もはや黴の生えた昔話だ。高たんぱく・低カロリーで、味も見た目も良い料理こそが、激しい運動に耐えうる体をつくり、厳しいレースをこなす上でのモチベーションにつながる。  ここ数年でスポーツ界に浸透した食の理念は、自転車競技においても例外ではなく、潤沢な資金を持つプロチームはこぞって才能あるシェフを招き入れた。レムの所属するアルティメット・ハニーベア・サイクリングも、もちろんその中のひとつだ。  デンマークの三つ星レストランで働いていたというマックスのアボカドオムレツとパイナップルタルトを初めて食べた時、レムは良い時代になったものだとしみじみ実感した。
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