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 なにせ今から十年前、レムがプロになりたての頃は、レース中の食事といえば毎日大盛りパスタがあたりまえで、味は二の次。食事を楽しむという感覚はなく、エネルギーに変わるものをひたすら体に詰めこんでいる、いわばレースの延長線上にあるものだった。二十代の初めに一生分食べさせられたおかげで、レムは今でもそれほどパスタが好きではない。  そして幸福なことに、パスタだけで腹を満たさなくても、目の前のテーブルには美味い料理が盛りだくさんだ。黒胡椒をしっかりきかせたシーフード・マリネに、香ばしい湯気を立てるローズマリー・チキン。食後にはとびきり甘いティラミスもついてくると得意げな顔で教えてくれたのは、普段、選手の食生活を厳しくチェックする立場にある監督だ。レース期間中、選手と同じローカロリー食を律儀に守る彼自身も、とろけるカスタード・クリームの魔力に抵抗するのはなかなか難しいらしい。  チームシェフの料理には及ばないが、ここのホテルの料理も悪くない。六日間のレースを無事に走り終えた解放感も手伝って、チームメイトやスタッフたちと囲むテーブルは和やかな空気に包まれていた。大会運営側からのプレゼントだというオージーワインのボトルが空になるたびに、給仕がすかさず新しいのを持ってきてくれる。「おまえら飲み過ぎるなよ!」と声を飛ばす監督の顔も、すでに真っ赤だ。
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