朝の紅茶

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朝の紅茶

 私は、国王ご一家の朝食の終わりに、紅茶を入れる紅茶係の侍女。  今朝も、皆さんのお食事が終わるころに、熱い紅茶を振る舞った。 「ありがとう」  その朝、なんと第1王子の王太子アルフェラッツ様が、紅茶係の侍女にお礼を言った! 驚きのあまり私は言葉もなく、ただお辞儀をしただけだった。 「どうした? 召使いに礼など言うなんて」  国王陛下が王太子に声をかけた。そうですよねー。召使いが日常的に身の回りのことをするなんてことは当たり前。いちいち礼を言うことではないはずなのです。 「だって父上。いつも思っていたのですが、彼女が淹れてくれる朝の紅茶はあまりに美味しく、ほかとは違うと思いませんか? 」  アルフェラッツ様はそう言うと、壁際に控えている私に、ふっと笑みを向けられた。ひぇーっ! 「そうね、確かに。いつもの朝の紅茶は美味しいわ」  なんと王妃さまもご賛同なさっている。  嬉しい…。 でも、もう最後。今朝のお仕事を終えたら、私は王宮の仕事を辞めて、故郷に帰る。  実は私は、王宮から遠く離れた辺境の領主の娘。王宮には行儀見習いを兼ねた出稼ぎに行っていたのだ。  うちの領地は温暖だが土地が少し高く、斜面も多く寒暖差が激しい。作物栽培などは難しいが、唯一誇れるものが、お茶の生産だった。  領地にはあちこち茶畑が広がり、良質の茶葉が収穫できる。その茶葉をいろんな製法で、いろんな紅茶に仕立てている。  私が王宮に出稼ぎしている時も、領地からお気に入りの茶葉を送ってもらっていた。  王宮の厨房で、使用人仲間に振る舞っていたら、コック長が国王ご一家の食後のお茶に出すようにと言ってくれたのだった。 (お茶を出し続けて1年ほど経ったけど、最後に褒められて、とっても嬉しい)  王族が、使用人にお礼を言うなんてことは滅多にない。  アルフェラッツ様は幼いころ、政情不安定な王宮から離れて、自然豊かな片田舎で過ごされていた。その頃、使用人たちとの距離が近い生活をされていたので、身分にかかわらず分け隔てなく接する人間味あふれたお人柄になられた。普段から、アルフェラッツ様はちょっとしたことで、使用人たちにお礼の言葉をかけてくれていた。  でも、王家の皆さんの前でお礼を言われるなんて…。誇らしい土産話を持って、堂々と領地へ帰れるわ!!
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