招待状

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招待状

 領地に戻って半年、今日は1年で最後の茶摘みの日。領主の令嬢みずから、領民と一緒に茶摘みに参加していた時…   「エルラ様―! 」  侍女のナシーラが呼んでいる。 「ここよー! どうしたの? 」  茶畑のなかから手を振った。 「旦那様がお呼びですよー」  今日は茶摘みだと言っておいたのに、急にどうしたんだろう?  茶摘み籠を背負ったまま、私は館へ戻った。 「どうしたの? お父様。今、茶摘み佳境なんだけど」 「実は今しがた、王宮から遣いが来てな」  お父様は私に、書状を見せながら続けた。 「今度、王宮で茶会を催すそうだ」 「はあ。お茶会ならいつものことでしょう? わざわざこんな辺境の子爵家まで、いつも呼ばれたりしないじゃない」 「それが、ただの茶会ではない。半年ほど前まで、国王ご一家の朝食後に出されていた紅茶を探すためのものだというのだ」  ええっ! それって…。 「そうだ。その紅茶とは、うちの紅茶だ」 「そうよね。だったら、それはうちの紅茶だって言えばいいんじゃない? 」 「それが、そうスムーズにはいかないのだ」 「なんで? どういうこと? 」  王宮ではエルラが辞めてから、朝食後の紅茶の味が変わったことに国王ご一家が気づかれ、今まで出されていた紅茶の種類と、淹れていた侍女は誰かという話になった。  もちろんエルラ・カイトスの名前と領地はすぐにわかったのだが、ほかにも紅茶が名産の領地の娘が奉公にあがっていて… 「使われた紅茶は、うちの領地のものですわ」 「給仕をしたのは違いますが、お出しする紅茶を淹れたのは私です」 などなど、言い出すご令嬢たちが続出して、訳が分からなくなってしまったのだった。それで茶会を開き、件の紅茶を見事に淹れた者を探しだそうということになった。 「一体どうして、そんなことになっちゃったの? 」 「それはな、第1王子が、ご興味をもたれたから、だそうだ…」 「ご興味って、何に? 」 「それは、つまり、その、紅茶を淹れてくれた…要するに、お前にだ」 「へっ、私に? なんで? 」 「なんでって、そりゃ…」  ここで父領主サダク・カイトスは気がついた。  娘エルラはこの辺境の領地で、小さいころから領民たちの子どもたちと遊びつつ、茶の栽培や摘み取り、製造などに関わり、自然とともに天真爛漫に生きてきた。  それゆえ男女のことなどは、まるで本のなかの別世界の出来事のように縁がなかったのだ。であるから当然、王宮に仕えているご令嬢たちの言動も、なんのことやらさっぱり理解できないのだろう。 「えーとな、つまり、それは…、第1王子が、お前のことを、その、おそらく、気に入っちゃったのかなー、ってことじゃないかと…」 「…気に入った?」  父領主はこくこくと頷いた。  次の瞬間、エルラの胸はどきりと高鳴り、体中の血が逆流したかのような衝撃を感じ、顔がみるみる真っ赤になってしまった。 「エ、エルラ…、大丈夫か…? 」  エルラは耐えきれず、その場を飛び出した。  気に入った? それって…、つまり、もしかして…?。 「ナニソレ…、どういうこと? アルフェラッツ様が…? 」  あの朝のアルフェラッソ様の微笑みを思い浮かべたら…、また顔が…。  あれ? でも、結局何なんだっけ? お茶会をひらいて、紅茶を淹れて、誰が私かってことだよね。  いや、違うか、美味しい紅茶か。紅茶が飲みたいんだね。でも、気に入ったのって…。  私?  と思ったら、また顔が赤く、動機が激しくなってきた。  でも、でも、結局何だったっけ?  もう一度、お父様に聞いてみよう。  少し冷静になってから、お父様のところへ戻りお茶会について詳しく話を聞いた。 お茶会では、例の侍女候補のご令嬢たちが、それぞれ紅茶を淹れて、国王ご一家に飲んでいただく。紅茶の味は、茶葉だけでなく淹れ方によっても違うので、誰が、どの紅茶が本物かわかるということ。  まわりくどいやり方ではありますが、ちょっとしたイベント気分もあるのでしょう。 「で、紅茶を淹れた侍女であると思われるエルラ・カイトスにも、ご招待が来たということですね」 「そういうわけだ。行ってくれるか? 」 「ええ~、いやだぁ! 」 「なぜだ、エルラ!? 第1王子のお側にあがれるチャンスだぞ! 」 「うう、だって、なんかそれじゃあ、見世物みたいじゃない。そんな場所で美味しい紅茶なんて、淹れられないよ」 「行ってください! 姉さま! 」  そこへ入ってきたのは弟のルキオ。 「なによ、ルキオ。いきなり入ってこないでよ」 「いいえ、入らせていただきます! 話は聞きました。姉さまこそがアルフェラッツ様が探しておられる本物なんですから、負けるわけはありません。そうなれば、姉さまだけでなく、我が領地の紅茶も認められます。そして我が領地の紅茶は、シンデレラプリンセスティーとして、売れに売れまくり、この貧乏領地に潤いを与えてくれること間違いなしです。さらに、姉さまがアルフェラッツ様のご寵愛を受けることになれば…」 「わーっ! 待って待って! やめてー!! 」  あり得ないことじゃないけど、話が飛びすぎだよー! それに恥ずかしいよー! 「うむ、さすがしっかり者のルキオ。先のことまで考えてくれているのだな」  お父様、感心しちゃわないでよ。 「父上の跡取りとして当然ですよ。姉さま、さっそくお茶会へ向けて準備をしましょう」 「ちょっと話を勝手に進めないでよ。私、出るなんて言ってないよ」 「いえ、これは出るでしょう。領主の令嬢として生まれた以上、もはや姉さまだけの問題ではないんですよ」  うっ、確かに言われてみれば、その通りかもしれない…。
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