運命のお茶会

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運命のお茶会

 いよいよお茶会当日。国王ご一家をはじめトップクラスの貴族たちが顔を揃えた。もちろんアルフェラッツ様もいらっしゃる。 「いよいよね、エルラ」 「なんか、フェタ、楽しそうじゃない? 」 「そりゃ、楽しいわよ」 「いいわね、気楽で」 「それより、エルラの服装、それじゃ侍女みたいに地味じゃない。もっと綺麗なドレス着ればいいのに」 「大層なドレスなんて持ってないし、この服のほうが仕事しやすいでしょ」 「ほかのご令嬢はそうでもないみたいだよ」  4人の候補者を見てみると、確かに皆さん、ご立派なドレスにアクセサリーもつけている。あれで動きにくくないのかな?  音楽が始まり、お茶会が始まった。  皆、思うままに、5人の候補者それぞれの紅茶のテーブルへと近寄っていった。もちろん私のテーブルにも。それも、噂のアルフェラッツ様が一直線に向かってきてる! 一歩、近づいてくるごとに、私の心臓がどんどん早くなっていく。  アルフェラッツ様は、紅茶のテーブルを挟んで私と向かい合うと、にっこり笑って話しかけてきた。 「ようやく会えた。ずっと探していたんだよ」  私は、どう答えたらいいかわからず、すっと腰を落としてお辞儀した。 「そのお辞儀の仕方。やっぱり君だ」  周りの皆さんの目が、こちらに集まっている。私はみるみる赤面した。  その時、砂時計がすっかり落ちきったので、急いで温めておいたカップに紅茶を注いだ。 「お、お探しのものは、こちらでしょう」  そう言って、紅茶のはいったカップを、アルフェラッツ様に差し出した。 「まあ、いい香り」  ほかのお客様も次々と、紅茶の入ったカップを手に取った。 「お席まで、お持ちしましょう」  控えていた執事たちが、お客様が選んだ紅茶をトレーに載せ、座る席まで持って行った。執事たちは頼めばお茶菓子も運んでくれる。  アルフェラッツ様も、持っていったエルラの紅茶を飲んでいたが、首をかしげていた様子だった。 (やっぱり、わかるのかな…)  ほかの候補者たちの紅茶も、美味しそうな香りがしている。 「さっきの王太子の様子からすると、君が本命なのかな? 」  顔をあげると、貴族のご子息がひとり立っていた。 「僕にも一杯、淹れてくれるかな」 「あ、はい。ただいま」 「確かに、いい香りがするね。この紅茶は君の領地のオリジナル? 」 (誰? この人) 「三大公爵家のひとつ、アスメディク家のご子息、ルクバート様だよ」  隣からミアがそっと教えてくれた。  ああ、この方が。大変優秀であり、交友関係もかなり派手だという噂の…。 「どうぞ」  紅茶を差しだすと、自ら手に取り、その場で一口飲んだ。 「うん。味もいいね」  ふっと微笑んで、立ち去って行った。 「かっこいい~!! 」  フェタがうっとりとした。 「美形だし、いろんな令嬢との噂が絶えないのもわかるわ~。私、今度はアスメディク家に奉公しようかな」   参加者たちがひと通り紅茶を飲みおわったころ、再びアルフェラッツ様がやってきて、小さな声で言った。 「君は…、君で間違いないのに、この紅茶は、違う紅茶だね」  おもむろに指摘され、私は口をつぐみ、フェタとミアは、驚いて私を見た。 「なぜ? このお茶会の趣旨は伝えてあったはずだろう。このままでは君は選ばれない」 「私は、選ばれようとしてここに来たのではありません」 「では、どうして、ここへ…? 」 「はじめは、あの朝の紅茶を、ちゃんと皆さんにお出ししようと思いました。でも、そうしたら、私も一緒に選ばれてしまう。そんな風に、それが目的みたいにして、皆さんに紅茶を飲んでいただくのは、なんとなく違うなって思ったんです」 「エルラ…」 「そうだったんだ…」  フェタとミアは、私の気持ちをわかってくれたようだった。  アルフェラッツ様は、少し悲しそうな顔をされて、そのまま去って行った。  お茶会は終わった。  あの朝の紅茶に一番近いとされたのは、紅茶マニアの宰相の娘タリア・トラルス様だった。しかし、国王ご一家の皆さんが、近いけれど同じではない、としたことから、あの朝の紅茶と紅茶侍女は彼女ではないとされた。  結局、探しものは見つからなかったのだ。
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