雪降る夜に

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雪降る夜に

 紅茶詰めの作業がひと段落したところで、みんなで遅い夕食をとり、通いの人は帰り、館に住み込みの人は使用人用の離れで休んでもらう。私はルクバート様にそっと囁いた。 「下男のサダクが使用人の離れにご案内しますが…、そちらでよろしいのですか? 」 「いいの、いいの。これも経験だよ」  みんなが引き上げたあと、ルキオの仕事が気になった。  部屋に行ってみると、案の定明かりがついている。 「ルキオ」  ノックして入っていくと、疲れた顔をして、ルキオが書類と格闘している。 「ああ、姉さま…」 「夕飯まだだって聞いたよ。持ってきたから、一休みして食べなよ」 「ありがとう」  ルキオが夕食を食べたらもう休んでもらおうと、紅茶ではなく熱いハーブティーを淹れてあげた。今夜は冷える。 「あとは、これだけやろうと思うんだ。もう少しだから」 「これくらいなら私にもできるよ。進めておくね」  書類を仕分けしながら帳簿にまとめていく。しばらく進めてから、ふとルキオを見ると、ソファにもたれて眠っていた。 「ルキオ、こんなところで寝たら風邪ひくよ」  起きそうにないルキオに、仕方ないから毛布を持ってきて掛けてあげた。私が少しでも、進めておかなくちゃ。  真夜中にさしかかったころ、寒さに身震いがしたので、暖炉に薪を足そうと立ち上がると… 「こんな時間まで、何やってんの」  開いたドアのところに、ルクバート様が立っていた。 「ルクバート様…」 「いつまでも明かりがついてるから、気になって来てみれば…。ちゃんと休まなくちゃ、明日も作業続けられないよ。エルラちゃんも、弟君も」 「見せて、どこやってたの? ああ、これか」  ルクバート様は、今まで私が座っていた椅子に座ると、書類や帳簿を見て、手際よく作業を始めた。 「ふ、ふぇっくしっ! 」 寒かったからくしゃみが出ちゃった。 「ほら、火、もっと大きくして。弟君も風邪ひいちゃうよ」 「は、はひ…」  鼻をすすりながら暖炉の火を調節した。椅子に座ってルクバート様の様子を見ていると、作業が早い。しかも正確。もうすぐ終わりそうだ。  ほっとした私は、さっき淹れたポットのハーブを出し、新しいハーブで熱いハーブティーの準備をしておいた。ルクバート様が作業を終え、書類や帳簿をまとめているところに、淹れたてのハーブティーをお出しした。 「ありがとう。いいタイミング」  ルクバートさまは、にこっと笑った。 「さすがですね。あっというまに出来ちゃった」 「伊達に公爵家のご子息、やってないよ。ずいぶん遅くなった。弟君も起こして、ちゃんと部屋で休もう」 「はい。ありがとうございました」  ルキオを起こそうとした時… 「あ、ちょっと待って。こっち来て」  ルクバート様は、紅茶のカップを持って窓際に立っている。 「なんですか? あっ…」  窓辺に行って外を見ると、暗い外にちらちらと雪が待っていた。 「雪だ。どおりで冷えるはず…」  カイトス領の冬は、時々雪が降るけれど、積もるほどではない。音もなくひらひらと舞い降りる雪のかけらたちは、冷たいけれど美しい。王都にも雪は降ってるのだろうか? アルフェラッツ様も、この雪を見てるのだろうか…。  ふと頬に、ルクバート様の指先が触れた。 「あの…? 」  見上げると、ルクバート様はふっと微笑んだ。 「ほっぺが冷たい。暖かくしてもう寝よう」 「そうですね。ルクバート様、今日は本当に助かりました。ありがとうございました」
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